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【慶應SFC 小論文】慶應義塾大学 総合政策学部 2016年 小論文 過去問解説

問1【解説】

1. 問題の要求事項の確認

まず、設問で求められていることを正確に把握します。

選択:

「①国際比較」「②職業の世代間移動」「③高齢化」の3つの視点から1つを選ぶ。

要約:

選んだ視点に対応する2つの資料を、それぞれ200字以内で要約する。

記述:

解答欄に選んだ視点の番号を記入する。

2. 視点の選択

3つの視点のうち、どの視点を選ぶかを決定します。それぞれの資料の主張が明確で、対比しやすいものを選ぶのが得策です。

① 国際比較:

 資料1(橘木)と資料2(ピケティ)は、日本の所得格差の国際的な位置づけについて、異なる指標を用いて異なる結論を導いています。対比が非常に明確で論じやすい選択肢です。

② 職業の世代間移動:

 資料3(佐藤)と資料4(石田・三輪)は、「管理職」の世代間移動の開放性について、異なる時期のデータを用いて異なる見解を示しています。これも良い選択肢です。

③ 高齢化:

 資料5(橘木)と資料6(大竹)は、所得格差の要因として「高齢化」をどう捉えるかについて論じています。

 今回は、用いる指標の違いが結論の差に直結している点が分析しやすい「① 国際比較」を選択します。

3. 各資料の要点整理(視点①:国際比較)

資料1:橘木俊詔『日本の経済格差』

主題:

日本の「平等神話」の崩壊。

分析指標:

ジニ係数

主張の核心:

 日本の所得分配の不平等度は、1980年代から90年代にかけて急激に高まった。1990年代前半の当初所得のジニ係数を見ると、日本は先進諸国の中でも最高水準の不平等度であり、アメリカよりも高い。

結論:

 日本はもはや平等な国とは言えず、「平等神話」は崩壊しつつある。

資料2:トマ・ピケティ『21世紀の資本』

主題:

所得格差の国際比較における構造分析。

分析指標:

トップ0.1%の国民所得シェア。ジニ係数のような総合指標は、異なるメカニズムを混ぜ合わせるため分析には不向きだと批判している。

主張の核心:

 アメリカなど英語圏では、トップ層の所得シェアが急増し、20世紀初頭の記録的な水準に戻った。日本やヨーロッパでもトップ層のシェアは増大しているが、その度合いはアメリカほどではなく、20世紀初頭に比べれば格差ははるかに小さいままである。

結論:

マクロ経済の視点から見ると、日本における所得格差の拡大はアメリカほど顕著ではない。

4. 要約文の作成と推敲(各200字以内)

 整理した要点をもとに、200字以内の要約文を作成します。

資料1の要約案:

 橘木はジニ係数を用いて所得分配の国際比較を行い、日本の所得不平等度が1980年代以降に急激に高まったと指摘する。特に課税前の当初所得で見ると、日本のジニ係数はアメリカをも上回り、先進国の中で最高水準にあると論じた。この結果から、日本は平等社会であるという従来の「平等神話」は崩壊しつつあると結論づけている。(156字)

資料2の要約案:

 ピケティは、ジニ係数のような総合指標を避け、トップ0.1%の所得シェアで格差を分析する。その結果、アメリカなど英語圏ではトップ層のシェアが急増し20世紀初頭の水準に戻ったのに対し、日本ではシェアの増大は見られるものの、その度合いは緩やかで20世紀初頭の水準よりはるかに低いままだと指摘した。ゆえに日本の格差拡大はアメリカほど顕著ではないと結論づけている。(176字)

 どちらも字数制限を満たし、主張の核心と根拠が明確に含まれています。これで解答の骨子が完成しました。

問1【答案】

資料1の要約 (186字)

 筆者は、所得分配の不平等度を示すジニ係数を用いて国際比較を行っている。分析の結果、日本の所得不平等度は1980年代から90年代にかけて急激に高まり、特に課税前の当初所得で見た場合、アメリカを上回る先進国最高水準にあると指摘した。この事実は、多くの日本人が信じてきた「日本は平等社会である」という通念、すなわち「平等神話」が崩壊しつつあることを示していると結論づけている。

資料2の要約 (191字)

 筆者は、ジニ係数のような総合指標は格差の多様な様相を捉えきれないと批判し、トップ0.1%の富裕層が国民所得に占めるシェアを分析指標に用いる。アメリカなど英語圏ではこのシェアが急増し20世紀初頭の水準に戻った一方、日本では増大傾向こそあるものの、その度合いは緩やかで、歴史的に見ても格差は小さいままだと指摘。よって日本の所得格差拡大は、アメリカほど顕著なものではないと結論している。

問2【解説】

1. 問題の要求事項の確認

 まず、設問「あなたが問1で選択した資料は、同じ視点で分析しているにもかかわらず、異なる結論に至っています。その理由を300字以内でまとめなさい。」の核となる要求を分解します。

前提: 問1で選択した資料(資料1と資料2)は、「国際比較」という同じ視点である。
事実: しかし、両者の結論は異なっている。
課題: その「理由」を明確にする。
制約: 300字以内で、PREP法(結論 → 理由 → 具体例)の構成で記述する。

2. 両資料の「結論」と「根拠」の再確認

 結論がなぜ異なるのかを明らかにするため、それぞれの主張の核心と、その根拠となった分析手法を再度確認します。

資料1(橘木)

結論:

日本は先進国の中で最高水準に不平等な国である。

根拠(指標):

社会全体の所得分布のばらつきを示す「ジニ係数」。

資料2(ピケティ)

結論:

日本の格差拡大は、アメリカほど顕著ではない。

根拠(指標):

ごく一部の富裕層への所得の集中度を示す「トップ0.1%の所得シェア」。

 ここから、結論の違いを生んだ直接的な原因が、格差を測るために用いた分析指標の違いであることがわかります。

3. PREP法に基づいた文章構成

 上記の分析結果を、PREP法のフレームワークに当てはめて文章を組み立てます。

P (Point): 結論を提示

まず、理由の核心を一行で述べます。「分析に用いている指標が異なるため」が最も簡潔で的確な結論です。

R (Reason): 理由を説明

次に、その「指標の違い」とは具体的に何かを説明します。資料1が社会全体の分布を測る「ジニ係数」を、資料2がトップ層への集中度を測る「所得シェア」を使っていることを対比させて記述します。

E (Example): 具体例で補強

最後に、指標が違うとなぜ結論が変わるのかを具体的に述べます。ジニ係数で見ると日本は「不平等」と評価される一方、トップ層のシェアで見ると「アメリカほどではない」と評価される、という事実を指摘します。これにより、「指標の違いが評価の違いを生む」という主張を補強します。

4. 字数調整と推敲

 構成した文章を300字以内に収まるよう、冗長な表現を削り、洗練させます。各要素を簡潔に、しかし意味が損なわれないように調整して最終的な解答を作成します。

【結論】

 両資料が格差を分析するために用いている指標が異なるためである。

【理由】

 資料1は、社会全体の所得分布のばらつきを包括的に示す「ジニ係数」を根拠に、日本の不平等度は国際的に見て最高水準だと結論づけている。一方、資料2は、超富裕層への所得の集中度合いを示す「トップ0.1%の所得シェア」を指標としており、その観点では日本の格差はアメリカほどではないと分析している。

【具体例】

 このように、社会全体のばらつきを重視するか、トップ層の突出を重視するかという指標の設計思想の違いが、同じ日本の格差に対する異なる評価を生み出している。

問2【答案】(288字)

 資料1と資料2が格差を分析するために用いている指標が異なるためである。
 資料1は、社会全体の所得分布のばらつきを包括的に示す「ジニ係数」を根拠に、日本の不平等度は国際的に見て最高水準であると結論づけている。一方で、資料2は、一国内での超富裕層への所得の集中度合いを示す「トップ0.1%の所得シェア」を指標としており、その観点では日本の格差はアメリカほど深刻な大きさではないと分析している。
 このように、一国の中で、社会全体のばらつきを重視するか、トップ層の突出を重視するかという資料が用いた指標の設計思想の違いが、日本の格差という同じ対象に対する異なる評価を生み出している。

問3【解説】

■ 議論の整理

(共通の前提)

課題文で提示された資料は、現代日本において「格差」が深刻な問題であるという認識を共有している。

(議論の論点)

格差拡大が急激に進行し固定化しているとする論(資料1, 3, 5)と、その原因は主として高齢化という人口動態の変化であり、世代間の移動性などは長期的に見れば大きく変化していないとする論(資料2, 4, 6)が対立している。

■ 問題発見

(問題の発見)

本稿では、2020年に日本の「格差」が3つの視点からどう変化するかを予測し、その予測をより説得的なものにするために必要な調査・分析は何かを論じる。

■ 論証および結論

2020年までに、日本の格差は以下のようになると予測する。

①国際比較の視点

グローバル経済の進展に伴い、富裕層の資産・所得はさらに増加し、格差は拡大傾向をたどる。しかし、用いる指標によって日本の国際的な位置づけは変わるため、格差が一義的に「悪化した」とは断定しにくい状況が続く。

必要な調査・分析:

ジニ係数、トップ1%の所得シェア、相対的貧困率など、複数の指標を用いてOECD諸国の最新データを比較分析し、日本の格差構造を多角的に位置づける。

②職業の世代間移動の視点

 4年間という短期間で社会構造が劇的に変化するとは考えにくく、親の職業的地位が子の地位に影響を及ぼすという階層の閉鎖性は維持、もしくは微増する。経済の停滞感が続けば、「格差の固定化」に対する人々の実感はより強まるだろう。

必要な調査・分析:

 2015年以降の「社会階層と社会移動(SSM)調査」の個票データを分析し、特に若年層の親子間の職業移動に関するオッズ比を算出し、過去の調査結果と時系列で比較する。

③高齢化の視点

これは最も確実な変化であり、所得格差の大きい高齢者層の割合が増えることで、社会全体のジニ係数に代表される「見かけ上の格差」は拡大する最大の要因となる。

必要な調査・分析:

 所得格差の上昇分を、「年齢階層内の格差変化」と「人口構成の高齢化による効果」に切り分ける要因分解分析を行う。これにより、高齢化が全体の格差に与える影響を定量的に測定する。

■ 最終的な結論

以上の予測と分析計画に基づき、総合政策学部では、複数の実証的アプローチを統合することで、日本の格差問題の複雑な実態を解明する研究に取り組みたい。

問3【答案】(549字)

 今まで提示された6つの資料群は、現代日本において、貧富の格差が深刻な問題であるという認識を共有する一方で、貧富の格差の拡大が急激に固定化されつつあるとする論と、高齢化という人口動態の変化が最も主要な原因であり、格差構造は長期的に不変であったとする論とで対立している。
 そこで、まず2020年の日本の経済格差を三つの視点から予測し、次にその検証に必要な調査・分析を提示していく。
 第一に、国際比較の観点からは、グローバル化の進展に伴い富裕層の所得は増加し、国内外の格差は拡大するが、指標次第で国際的な位置づけは変動するため、ジニ係数や相対的貧困率など複数指標を用いた多角的な比較分析が不可欠となる。
 第二に、職業の世代間移動に関しては、短期的な社会構造の変化は考えにくく階層の閉鎖性は維持されると予測され、この予測はSSM調査データの時系列分析による検証が求められる。
 第三に、高齢化は所得格差の大きい年齢層の増加を意味するため、「見かけ上の格差」を拡大させる最大の要因となり、この影響は所得格差の要因分解分析によって定量的に測定すべきである。
 したがって、私は、総合政策学部において、こうした複数の実証的アプローチを統合することで、日本の格差問題の複雑な実態を解明する研究に取り組みたいと考える。

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