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上智大学 総合人間科学部 教育学科 外国人入試 2021年 過去問解説

問1【解説】

1. 問題の分解と要求事項の確認

まず、設問を正確に理解し、何が求められているかを明確にします。

問い:

 「構造的暴力」とは何か。それが身体に対する暴力と同じくらい深刻な問題となりうる理由を、あなたが知る具体例を挙げて説明しなさい。

制約:

 400字以内。

キーワード:

 構造的暴力、身体に対する暴力(=直接的暴力)、深刻な問題、具体例。

解答要素

 この問いは、次の3つの要素を解答に含めることを要求しています。

定義:

「構造的暴力」の概念を本文の内容に即して説明する。

具体例:

 自身の知識や経験から具体的な事例を提示する。

論証:

 その具体例が、なぜ直接的暴力と同様に「深刻な問題」と言えるのかを論理的に説明する。

2. 本文の読解と「構造的暴力」の定義の抽出

 次に、課題文から「構造的暴力」に関する記述を抜き出し、その本質を掴みます。これらの要素をまとめ、「社会の制度や文化といった構造によって、特定の人々の機会が奪われ、心身が間接的に傷つけられる状況」と定義することができます。

  • 本文には「社会の構造の中に組み込まれた暴力」とあります。
  • 「貧困や飢餓に苦しむ人々」がその例として挙げられており、直接誰かが殴ったりするわけではないが、結果的に人々が傷つけられている状態を指します。
  • 加害者が特定しにくい「間接的な暴力」である点が特徴です。
  • 結果として、教育や医療の機会などが奪われ、人間の尊厳や可能性が損なわれる状況を生み出します。

3. 具体例の考案と比較検討

 次に、定義に合致する具体例を考えます。教育学部の問題であることを考慮し、教育に関連する例が説得力を持ちやすいでしょう。

候補1:子供の貧困と教育格差

 経済的な理由で塾に通えない、参考書が買えないといった状況により、学習機会に差が生まれる。
 結果として、希望する進路に進めず、将来の所得や職業選択の幅が狭まる。
 これは特定の誰かが暴力を振るっているわけではなく、「経済格差」と「学歴が重視される社会構造」が生み出す暴力である。

評価:

 教育学部のテーマに非常に適合しており、身近で理解しやすい。深刻さも伝わりやすい。

候補2:ジェンダーによる格差

 「女性はこうあるべきだ」という社会的なプレッシャーや固定観念により、特定の学問分野や職業への進出が阻まれる。
 賃金格差や管理職登用の機会不均等なども含まれる。

評価:

 これも優れた例だが、「貧困」ほど直接的に本文の例(飢餓など)と結びつかないかもしれない。

候補3:地域間格差

 都市部と地方で受けられる教育や医療、アクセラブルな情報量に差がある。
 これにより、居住地によって人生の選択肢が制限される。

評価:

 良い例だが、原因が複合的で400字で説明するのがやや複雑になる可能性がある。今回は、最も説明しやすく、問題の意図に合致する候補1「子供の貧困と教育格差」を採用することにします。

4. PREP法に沿った構成の組み立て

 最後に、PREP法(Point, Reason, Example, Point)の構成に沿って、これまで整理した内容を文章化し、400字にまとめます。

P (結論):

 まず「構造的暴力」とは何かを端的に定義する。
 (構造的暴力とは、社会の仕組みによって人々から機会が奪われ、間接的に心身が傷つけられることである。)

R (理由):

 なぜそれが深刻なのかを説明する。
 (直接的な暴力と違い、加害者が不明確で問題が見えにくいため、貧困や格差が固定化・再生産されてしまうからだ。)

E (具体例):

 考案した「子供の貧困と教育格差」の例を具体的に記述する。
 (例えば、現代日本の子供の貧困問題が挙げられる。経済格差により、質の高い教育を受ける機会が制限された子供は、将来の選択肢が狭まり、貧困の連鎖に陥りやすい。これは、教育制度や経済システムという社会構造が、子供の可能性を奪っている暴力と言える。)

P (結論の再確認):

 具体例を通じて、構造的暴力の深刻さを再度強調して締めくくる。
 (上記例文の「社会構造が、子供の可能性を奪っている暴力と言える」という部分が、結論の再確認の役割を果たす。)
この構成案を基に、自然で論理的な日本語の文章に推敲し、字数調整を行って解答を完成させます。

【結論】

 構造的暴力とは、特定の個人が意図的に危害を加えるのではなく、社会の制度や文化といった構造そのものによって、特定の人々が潜在的な可能性を十分に発揮できず、間接的に心身が傷つけられる状況を指します。

【理由】

 これが直接的な暴力と同じく深刻なのは、加害者が明確でないために問題が認識されにくく、貧困、差別、格差といった状況が固定化され、世代を超えて再生産されやすいからです。それは、目に見える形で現れなくても、確実に人々の尊厳と未来を奪う力として作用します。

【具体例】

 例えば、現代日本における「子供の貧困」がその一例です。経済的な格差により、塾に通ったり参考書を十分に購入したりできない子供は、質の高い教育機会を得にくくなります。その結果、学力に差がつき、希望する大学や職業への道が狭められ、将来的に貧困から抜け出しにくくなるという「貧困の連鎖」が生じます。この状況は、特定の誰かがその子供に暴力を振るっているわけではありません。しかし、教育機会の不平等を内包した経済・社会システムという「構造」が、子供たちの将来の可能性という生きる力を奪っている点で、深刻な暴力と言えるのです。

問1【解答】(396字)

 構造的暴力とは、特定の個人が意図して加えるのではなく、社会の制度や文化が、人々の潜在的な可能性を奪い、間接的に心身を傷つける状況を指す。これが直接的な暴力と同じく深刻なのは、加害者が不明確なために問題そのものが認識されにくく、結果として貧困や格差が固定化され、世代を超えて再生産されやすいからである。
 具体例として、現代日本の子供の貧困問題が挙げられる。経済的な格差によって、塾や習い事といった質の高い教育機会にアクセスできない子供は、学力に差がつきやすくなる。その結果、希望する進路が閉ざされ、将来の職業選択の幅も狭まることで貧困の連鎖に陥る。これは、特定の誰かが意図して暴力を振るっているわけではない。しかし、教育機会の不平等を内包した経済・社会システムという目に見えない「構造」が、子供たちの将来の可能性を静かに奪っている点で、身体への直接的な暴力と何ら変わらない深刻な問題と言える。

問2【解説】

■ 議論の整理

 まず、答案を作成する上での前提となる課題文の内容を正確に整理します。

課題文の内容の要約:

 筆者は、平和学者ヨハン・ガルトゥングの議論を引き、平和には二つの側面があることを示している。一つは、戦争や直接的な暴力がない状態を指す「消極的平和」である。もう一つは、それだけでなく、貧困や飢餓、差別といった「構造的暴力」もなく、すべての人間が潜在的な可能性を最大限に発揮できる、公正で協力的な社会を目指す「積極的平和」である。筆者は、この「積極的平和」の実現が重要であると示唆している。

論の論点(対立軸):

 この文章における論点は、「平和」をどのように捉えるかという点にある。

一般論(消極的平和):

 平和とは、単に戦争がない状態である。

筆者の論(積極的平和):

 平和とは、戦争がないことに加え、貧困や差別といった社会構造に埋め込まれた暴力(構造的暴力)をなくし、人権が保障され、公正な社会を積極的に構築していく状態である。

■ 問題発見

 この小論文で何を論じるべきかを明確に設定します。

この小論文で答えるべき問い:

 課題文が定義する「積極的平和」、すなわち「社会的な公正を実現し、すべての人が尊厳をもって生きられる状態を、教育制度や政策、実践を通じていかにして実現できるか?」。この問いに対し、具体的な国や地域の事例を根拠として答えを導き出すことが、この設問の核心的な要求です。

■ 論証→演繹法

 設定した問いに対して、具体的な事例を用いて論理的に証明していくパートです。ここでは「演繹法」を用いて構成するのが効果的です。

ルールを定立する(大前提)

 「積極的平和」の実現には、社会から「構造的暴力」を取り除くことが不可欠である。したがって、その実現を目指す教育は、①教育機会の均等を通じて経済格差などによる不平等を是正する役割と、②多様性を尊重し、人権意識や批判的思考力を育むことで、差別や偏見のない社会を築く市民を育成する役割の二つを担う必要がある。

具体例を紹介する

 このルールを体現する事例として、フィンランドの教育政策を挙げる。フィンランドは、国際的な学力調査で常に上位にありながら、国内の教育格差が極めて小さいことで知られている。

具体例をルールに当てはめる(論証)

①不平等の是正について:

 フィンランドでは、就学前から大学院まで授業料が完全に無料である。さらに、全児童・生徒に温かい給食が無償で提供される。これは、家庭の経済状況が子供の学習機会や健康を左右するという「構造的暴力」を、教育制度レベルで取り除く試みである。これにより、すべての子供に公平なスタートラインを保障し、社会全体の公正さを高めている。

②市民の育成について:

 フィンランドの教育は、単なる知識の暗記ではなく、生徒自らが問いを立てて探究する学習や、他者と協働して課題を解決する能力を重視する。このような教育は、多様な背景を持つ人々と共存し、社会の課題を主体的に解決しようとする態度を育む。これは、差別や偏見のない協力的な社会を築く「積極的平和」の担い手を育成することに直結している。

■ 結論

 論証パートで展開した内容をまとめ、問いに対する最終的な答えを提示します。

導かれる結論:

 「積極的平和」の実現において、教育は極めて重要な役割を果たす。フィンランドの事例が示すように、教育は、授業料や給食の無償化といった制度・政策を通じて社会の構造的な不平等を是正すると同時に、協働的な学びを通じて多様性を尊重し、公正な社会を築くための価値観や能力を育むことができる。このように、教育制度と教育実践の両面からアプローチすることが、「積極的平和」を達成するための鍵となるのである。

問2【解答】(776字)

 筆者は、平和を単に戦争などの直接的暴力がない「消極的平和」と、それに加え貧困や差別といった「構造的暴力」をも取り除き、全ての人間が尊厳をもって潜在能力を発揮できる「積極的平和」の二つに分類する。本稿では、積極的平和の実現における教育の役割を、具体例と共に論じる。
 そもそも積極的平和を構築するには、社会に根付く構造的暴力の克服が不可欠である。したがって、その実現を目指す教育には二つの重要な役割がある。第一に、家庭環境によらず教育機会を均等にし、経済格差などの不平等を是正する役割。第二に、多様性を尊重し、公正な社会を築くための人権意識や批判的思考力を持つ市民を育成する役割だ。
 その好例がフィンランドの教育政策である。同国は教育制度の面で、就学前から大学院までの授業料を無料とし、全児童生徒に栄養価の高い給食を無償提供する。これは家庭の経済状況が子供の学習機会や健康を左右する構造的暴力を、制度的に取り除く試みと言える。これにより、全ての子どもに公平なスタートラインを保障し、社会全体の公正さを高めることに貢献している。
 さらに、同国の教育実践は知識の暗記に偏重しない。むしろ、生徒が自ら問いを探究する学習や、他者と協働し課題を解決する能力の育成を重視する。このような学びは、多様な背景を持つ人々と共存し、社会の課題を主体的に解決しようとする態度を育む。これは、積極的平和の担い手を育成することに直結するのである。
 以上のように、積極的平和の実現において教育が果たす役割は極めて大きい。フィンランドの事例は、制度を通じて構造的不平等を是正すると同時に、実践的な学びを通じて公正な社会を築く価値観や能力を育むという二重のアプローチの有効性を示している。教育制度と実践の両面から統合的にアプローチすることこそ、真の平和を達成するための鍵となるのである。

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