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上智大学 文学部 新聞学科 外国人入試 2021年 過去問解説

問1【解説】

■ 議論の整理

 ここでは、「感染」という言葉を、単なる生物学的な現象としてだけでなく、デマや憎悪が広がる社会現象のメタファーとして捉え直すことが着眼点です。この二重の意味を提示することで、コロナ禍という時事的なテーマを、より普遍的な情報社会論へと昇華させています。

(共通の前提)

 「感染」とは、ウイルスや細菌などの病原体が生物の体内に侵入し、増殖することを指す生物学的な現象である。しかし、現代社会、特にコロナ禍を経て、この言葉は単なる生物学的な意味を超え、情報や感情、社会的な分断といった、より広範な現象を説明するメタファーとしても用いられている。

(議論の論点)

生物学的な「感染」対策(ワクチン、治療薬など)は科学技術の進歩によって克服可能である。しかし、SNSなどを通じて、デマや陰謀論、あるいは特定の集団への憎悪といった、有害な情報や感情が「感染」のように拡散する「インフォデミック」は、新たな社会の脅威となっている。物理的な感染症と、社会的な感染症、この二つの「感染」に人類はどう立ち向かうべきかが論点となる。

■ 問題発見

 「生物学的な感染」と「情報・心理的な感染」という「二重の危機」に、社会はどう立ち向かうべきか、という問いを立てます。これにより、単なる感染症対策の議論に留まらず、現代社会における情報やコミュニケーションのあり方を問う、より射程の長い問題設定にしています。

(問題の発見)

 私たちは、新型コロナウイルスという生物学的な「感染」の脅威に直面する中で、同時に、社会の分断や対立を煽る、より厄介な情報・心理的な「感染」にも晒されている。この二重の「感染」に対し、私たちはどのようにして社会の健全性や理性を保っていくことができるのか。

■ 論証1: なぜなぜ分析

 有害情報が広がる理由を、「人々の不安」(心理)→「単純な物語への欲求」(認知)→「SNSアルゴリズム」(技術・社会構造)というように、個人の内面から社会システムへと原因を掘り下げることで、問題の根深さを多層的に示すために選択しました。

(論証A) なぜ有害な情報は「感染」のように広がるのか?

 人々が、目に見えないウイルスや、先行きの見えない社会状況に対して強い不安を感じており、その不安を解消してくれるような、単純で分かりやすい「物語」(陰謀論など)を求めているから。

(論証B) なぜ人々は単純な物語を求めてしまうのか?

 複雑な現実を多角的に理解し、科学的な根拠に基づいて判断するには、多大な知的エネルギーと時間を要するから。特に、不安や恐怖に駆られている状況では、認知的な負担が少ない、断定的な情報に飛びつきやすくなる。

(論証C) なぜ社会全体がそのような傾向に陥るのか?

 SNSのアルゴリズムが、ユーザーの感情を強く刺激し、エンゲージメント(いいね、リツイートなど)を高める情報を優先的に表示するため。その結果、客観的な事実よりも、人々の不安や怒りを煽るような情報の方が、爆発的に「感染」しやすい情報生態系(エコシステム)が形成されてしまっている。

■ 論証2: 帰納法

 ワクチンのデマ、ヘイトスピーチ、自粛警察といった、コロナ禍で実際に起きた具体的な現象を列挙することで、抽象的な「情報の感染」という概念にリアリティと説得力を与え、その共通法則(不安とSNSが媒介となる)を導き出しやすくするために採用しました。

例の列挙

 たとえば、コロナ禍において「特定のワクチンを打つと体内にマイクロチップが埋め込まれる」といったデマが世界的に拡散した。また、特定の国や人種がウイルスの発生源であるとするヘイトスピーチが「感染」し、深刻な差別を引き起こした。さらに、自粛やマスク着用を巡って、人々が互いを監視し、攻撃しあう「自粛警察」という現象も、社会的な不安の「感染」の一例といえる。

法則性を導く

 このことから、現代の「感染」とは、病原体だけでなく、不安や恐怖という感情、そしてそれに乗じたデマや差別意識が、SNSを主な媒介として人々の心に広がり、社会の連帯を破壊していく、という法則性が見出せる。

■ 結論

 論証で示した「二重の危機」という問題構造に対し、「情報ワクチン(メディアリテラシー)」という、生物学的なワクチンと対になるメタファーを用いて解決策を提示することが着眼点です。これにより、小論文全体に一貫した論理と比喩的な分かりやすさをもたらしています。教育とプラットフォームという具体的な担い手に言及することで、提言の実現可能性を示しています。

(Cから導かれる結論)

 現代社会が直面する「感染」の本質は、ウイルスの蔓延と、それに伴う社会的な分断という二重の危機である。この複合的な危機を乗り越えるためには、生物学的なワクチン(医学)だけでなく、社会的な分断やデマの「感染」を防ぐための「情報ワクチン」(メディアリテラシー教育)が不可欠である。

(その根拠)

 なぜなら、誤った情報や差別意識の「感染」は、公衆衛生上の対策(マスク着用やワクチン接種など)への協力を妨げ、結果として生物学的な感染拡大をさらに助長するという悪循環を生むからだ。社会の信頼と連帯という「集団免疫」を維持することこそが、あらゆる「感染」に対する最も有効な処方箋となる。

(その具体例)

 具体的な「情報ワクチン」として、学校教育の早い段階から、情報の発信者の意図や、科学的根拠の有無を見抜くためのメディアリテラシー教育を導入することが挙げられる。また、プラットフォーム事業者は、専門家やファクトチェック機関と連携し、明らかに有害なデマに対しては警告を表示するなど、その拡散を抑制する社会的責任を果たすべきである。

問1【解答】(965字)

 「感染」という言葉が、これほどまでに私たちの日常を支配した時代はなかった。新型コロナウイルスは、生物学的脅威として世界を席巻したが、その過程で私たちはもう一つの厄介な「感染」に直面した。それは、SNSを介してデマや陰謀論、他者への憎悪が心に広がる、情報・心理的な「感染」である。本稿では、この二重の感染の構造を分析し、社会の健全性を守るために私たちが何をすべきかを論じる。
 まず、有害な情報がウイルスのように広がる背景には、人々の根源的な「不安」がある。未知のウイルスや先行きの見えない社会情勢に直面すると、私たちは複雑な現実を単純化してくれる明快な物語に惹かれやすい。「特定の団体がウイルスを広めている」といった陰謀論は科学的根拠に乏しいが、「分かりやすい敵」を設定することで不安を軽減してくれるため、認知的負担が少なく受容されやすい。こうした心理的脆弱性が、誤情報の蔓延を助長する温床となっている。
 さらに、この人間の性質にSNSのアルゴリズムが拍車をかける。現代のプラットフォームは、ユーザーの滞在時間を最大化するため、その感情を強く刺激する投稿を優先表示するよう設計されている。その結果、客観的な事実を静かに伝える情報よりも、不安や怒りを煽る扇情的な内容の方が圧倒的な速度で拡散する。生物学的ウイルスが飛沫や接触で広がるように、情報ウイルスは「いいね」や「リツイート」を介して共有され、人々の心へ感染していくのである。
 以上の考察から、この二重の危機を克服するためには、医学的ワクチンだけでなく、社会的な「情報ワクチン」の接種が不可欠だと結論できる。誤情報の感染は、公衆衛生上の対策への協力を妨げ、結果として生物学的感染を拡大させる悪循環を生むからである。具体的には、第一に、学校教育の早い段階から、情報の発信者の意図を読み解き、根拠の有無を判断する批判的思考力を育む教育を導入すべきだ。第二に、プラットフォーム事業者は表現の自由を理由に責任を回避するのではなく、ファクトチェック機関との連携を強化し、有害なデマの拡散を抑制する社会的責任を果たす必要がある。ウイルスとの戦いとは、究極的には社会の信頼と連帯を守る戦いである。その基盤を蝕むもう一つの「感染」との闘いを抜きにして、私たちの未来を語ることはできないのである。

問2 【解説】

ステップ1.

 提示された7つの語句から、説明する4つを選択する。国際情勢や社会問題、現代社会のキーワードなどをバランス良く選ぶことが望ましい。

ステップ2.

 選択した各語句について、その核心的な意味を60字以内で簡潔に説明する文章を作成する。

ステップ3.

 文字数が制限内に収まっているかを確認し、表現を調整する。

問2 【解答】

カシミール地方 (60字)

インド、パキスタン、中国の国境が接する山岳地帯。インドとパキスタンが長年領有権を対立しており、紛争が絶えない地域である。

三密 (54字)

新型コロナ対策でクラスター発生のリスクが高く、避けるべきとされる「密閉空間」「密集場所」「密接場面」の総称。

SDGs (55字)

持続可能な開発目標を指した略称。2030年までに達成すべき、貧困や環境問題など17の国際目標に分けられている。

ジョージ・フロイド (59字)

白人警官に首を圧迫されて死亡したアフリカ系米国人男性。彼の死により、人種差別への抗議運動「BLM」が世界的に広がった。

問3 【解説】

ステップ1.

 問題文の下線が引かれた20の語句を順番に確認する。

ステップ2.

 語句が漢字の場合、その正しい読みをひらがなで記述する。

ステップ3.

 語句がカタカナの場合、文脈に合った適切な漢字表記を記述する。

ステップ4.

 解答欄に、それぞれ対応する解答を記入する。

問3 【解答】

  1. カコク→苛酷
  2. カンソカ→簡素化
  3. ジゾクカキュウフキン→持続化給付金
  4. カンテイリュウチ→鑑定留置
  5. シッカン→疾患
  6. トコウセイゲン→渡航制限
  7. メンエキ→免疫
  8. タメル→貯める
  9. ジュウオウムジン→縦横無尽
  10. ルイケイ→累計
  11. 誹謗中傷→ひぼうちゅうしょう
  12. 普遍的→ふへんてき
  13. 撲滅→ぼくめつ
  14. 辛酸→しんさん
  15. 撒いた→まいた
  16. 賭博→とばく
  17. 喉→のど
  18. 抗う→あらがう
  19. 懐→ふところ
  20. 森羅万象→しんらばんしょう

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