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慶應義塾大学 看護医療学部 一般 2020年 小論文 過去問解説

問1【解説】

 この問題を解くためには、以下の4つのステップを踏むことが効果的です。

ステップ1:問題の要求を分析する

 まず、問題文を正確に理解します。

問い:

 「認知症の症状の程度や加齢に伴う認知機能の低下に、個人差がみられる」のはなぜか?

条件1:

 本文の内容を踏まえて説明すること。

条件2:

 200字以内で説明すること。

 この問いは、本文で説明されている「個人差が生まれるメカニズム」を特定し、それを要約する能力を試すものです。

ステップ2:本文から関連箇所を特定する

 次に、問題の根拠となる部分を本文から探し出します。下線部1)の直後が、問いに対する直接的な答えを提示している箇所です。これらの記述から、「認知の予備力」と「脳の可塑性」という2つの要素に個人差があることが、症状の程度の差につながる、という論理構造が見えてきます。

第一の理由:「認知の予備力」

 本文では、「加齢や認知症にともなう認知機能の低下の個人差を説明する概念」として「認知の予備力」が提唱されていると述べられています。これは、「情報処理に必要な能力をどれだけ蓄えているか、低下した機能を適切な方略によって代償することが可能か」という、個人の認知機能の質や量を指します。

 この予備力が高いほど、認知機能の低下が小さく、症状として現れにくいと説明されています。

第二の理由:「脳の可塑性」

 続けて本文では、「損傷した脳神経が担う機能を別の脳神経で代償する『脳の可塑性』」というプロセスについても言及されています。

 これにより、脳に解剖学的な変化が生じた後でも、機能の改善が可能であると示唆されています。 

ステップ3:解答の要素を整理し、構成を考える

 特定した2つのキーワードを軸に、解答の骨子を組み立てます。

結論:

 個人差が生じるのは「認知の予備力」と「脳の可塑性」に違いがあるから。

要素1(認知の予備力):

 これが何かを簡潔に説明する。「蓄えられた能力や適切な方略で機能低下を補う力」と言い換えられる。

要素2(脳の可塑性):

 これが何かを簡潔に説明する。「損傷した機能を別の脳神経で代償する力」と言い換えられる。

まとめ:

 これらの能力が高い人は、脳に変化があっても症状が現れにくい。
この構成に沿って文章を作成し、200字に収まるように調整します。

ステップ4:200字以内で簡潔にまとめる

 ステップ3で整理した要素を、指定された文字数内に収まるように記述します。専門用語を使いつつも、その意味が伝わるように平易な言葉で補足することが重要です。

問1【解答】(184字)

 認知症の症状や認知能力の低下において、個人差が生じるのは、「認知の予備力」と「脳の可塑性」に違いがあるためである。認知の予備力とは、教育や人生経験で得た豊富な認知活動の蓄えによって、機能低下を代償する力のことである。
 また、脳の可塑性とは、損傷した脳神経の機能を別の神経で補う力である。これらの能力が高いほど、脳に萎縮などの変化が生じても認知障害として発現しにくい。

問2【解説】

 この問題を解くためには、以下の4つのステップを踏むことが効果的です。

ステップ1:問題の要求を分析する

 まず、問題文が何を求めているかを正確に把握します。

  • 問い: 「脳トレの点数が数点あがることは、日常生活の物忘れが一つなくなることを意味しない」のはなぜか?
  • 条件1: 「効果の転移」という概念を用いること。
  • 条件2: 500字以内で論じること。
    この問題は、本文で説明されている「効果の転移」のメカニズムを正しく理解し、それを脳トレと日常生活の物忘れの関係に応用して、論理的に説明する能力を試すものです。

ステップ2:本文から関連箇所を特定する

 次に、解答の根拠となる「効果の転移」に関する記述を本文から探し出します。

「効果の転移」の定義:

 訓練した課題の成績が上がった結果、その効果が訓練対象以外の課題にも波及すること。

転移が起こる条件:

 ダーリン博士らの研究によると、訓練した課題と転移させたい課題で、認知処理(脳活動)が重なる(オーバーラップする)場合にのみ転移が認められる。別の脳部位を使うような課題では転移は見られない。

転移の難しさを示す例:

エリクソン博士の研究:

 数字を記憶する訓練で80桁まで覚えられるようになっても、対象を文字列に変えると訓練効果はなくなった。これは、効果が他の情報に転移しないことを示している。

英語学習の例:

 読み書きの練習をしても、聞き取りや会話が上達するわけではないという「水平方向の転移」の難しさが挙げられている。

脳トレに関する結論:

 シモンズ博士らのレビューでは、脳トレは訓練した課題の成績は改善するが、日常生活での認知機能のパフォーマンスを改善するという根拠はほとんどないと結論づけられている。

 本文の筆者は、「計算がどれほど速く正確にできるようになっても、人の名前を覚えられるようになるわけではない」と述べている。

 これらの情報から、「脳トレで鍛えられる特定の能力」と「日常生活で必要とされる多様な記憶能力」は、認知処理や使う脳部位が異なるため、効果の転移が起こりにくい、という論理を組み立てることができます。

ステップ3:解答の要素を整理し、構成を考える

 特定した情報を基に、500字以内で論理的な文章を構成します。

序論(結論の提示):

 なぜ脳トレの点数向上が物忘れの減少に直結しないのか。それは「効果の転移」が限定的だからである、と最初に述べる。

本論1(「効果の転移」の説明):

 「効果の転移」が何かを本文に基づき定義する。そして、転移が成立するための条件(認知処理のオーバーラップ)を説明する。

本論2(脳トレへの応用):

 脳トレで鍛えられる能力(例:計算速度)と、日常生活の物忘れ(例:人の名前を思い出す)では、必要とされる認知処理が異なることを指摘する。これは、本文にある英語学習の例のような「水平方向の転移」が起こりにくいケースに該当する。

結論:

 したがって、脳トレで特定の課題の成績が向上しても、認知処理が重ならない日常生活の多様な記憶能力にまで効果が転移することは期待できない。これが、点数向上が物忘れの減少を意味しない理由である、と締めくくる。

ステップ4:500字以内で論理的に記述する

 ステップ3の構成に沿って、指定された文字数内に収まるように文章を作成します。各文のつながりを意識し、論理的で説得力のある文章を目指します。

問2【解答】(483字)

 脳トレの点数向上は、日常生活の物忘れの減少を意味しない。その理由は、訓練効果が他の課題へ応用される「効果の転移」が極めて限定的だからだ。
 効果の転移とは、特定の訓練で得られた効果が訓練対象外の課題にも及ぶ現象を指す。しかし、この転移は無条件には起こらない。数字の記憶訓練の効果が文字列の記憶には及ばなかったという研究例が示すように、転移が成立するのは、訓練課題と応用したい課題で使われる認知処理や脳の活動部位が重なる場合に限られる。
 多くの脳トレは、計算速度や図形認識といった特定の能力を鍛えるものだ。本文で「計算がどれほど速く正確にできるようになっても、人の名前を覚えられるようになるわけではない」と指摘される通り、これは日常生活で求められる、人の名前や物の置き場所を記憶するといった多様な認知機能とは根本的に異なる。そのため、英語の読み書き能力が会話能力に直接繋がりにくい「水平方向の転移」と同様の問題が生じる。
 このように、特定の脳トレと日常生活の記憶では認知処理の重なりが乏しいため効果の転移は期待できず、点数が上がっても物忘れが減るわけではないのである。

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