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【慶應SFC 小論文】慶應義塾大学 環境情報学部 2020年 小論文 過去問解説

問1【解説】

問題の要求事項の確認

  • 4つの資料それぞれについて、著者が論じる「人間性」を要約する。
  • 表現方法は「一目でわかりやすく」、文章だけでなく図や記号も可。
  • 各解答に「人」「環境」「情報」の3つの言葉を必ず含める。

各資料の読解と「人間性」の抽出

【資料1】山極寿一:

 人間は弱い赤ん坊を共同で育てる必要から共感力を高め、道具や「言葉」を発明した。これにより、見えないもの(未来や神など)を想像し、共有するようになった。一方で、言葉にならない五感を通じた身体的なつながりも保持している。

人間性:

身体的な弱さを補うため、社会を形成し、言葉と想像力で世界を共有する能力。

【資料2】石黒浩:

 人間らしさ(心)は個人の内にある実体ではなく、他者との関係性の中で、相手の振る舞いから「想像力」によって補完され「感じられる」もの。アンドロイド演劇がそのことを示している。

人間性:

他者との関係性の中で、相手の振る舞いを解釈し、そこに「心」を読み取る社会的な能力。

【資料3】デイヴィッド・イーグルマン:

 日常の簡単な動作(歩行など)も、意識にのぼらない脳の膨大な計算(無意識)によって支えられている。この無意識の働きこそが人間を人間たらしめている。

人間性:

意識の背後にある、膨大な神経活動によって身体と世界を制御する、無意識の能力。

【資料4】鷲田清一:

 現代社会において、人間はモノの機能ではなく、それに付随する「モード(流行)」という記号的な意味を消費する。他者の視線を意識し、モードによって喚起される欲望に従って、常にセルフイメージを更新し続ける。

人間性:

社会的な流行に感受性を規定され、他者の視線を内面化し、記号的な消費を通じて自己を表現しようとする欲望。

「人」「環境」「情報」の組み込みとPREP法での構成

 上記で抽出した各資料の「人間性」の定義に、「人」「環境」「情報」の3つのキーワードを自然に組み込む。

結論(Point):

3つのキーワードを含んだ一文で「人間性」を定義する。

理由(Reason):

なぜそのように定義できるのか、資料の論旨を基に説明する。

具体例(Example):

資料中の具体例を引用し、結論を補強する。

この構成に沿って、4つの資料それぞれについて回答を作成する。

【1】霊長類学の視点から見た「人間性」

結論 (Point)

 【1】における人間性とは、人が厳しい自然環境を生き抜くために共同体を形成し、言葉や道具という情報伝達手段を用いて、見えない世界をも想像し共有する能力である。

理由 (Reason)

 人間は、ゴリラやチンパンジーと異なり、ひ弱な状態で生まれる子供を多産する必要に迫られました。この困難を乗り越えるため、母親だけでなく集団で子育て(共同保育)を行うようになり、他者の気持ちを読み取る「共感力」が発達しました。さらに、道具や言葉というコミュニケーションの道具を発明したことで、時間や空間を超えて意思や知識を共有できるようになり、現実には存在しない神や未来といった抽象的な概念を信じる独自の世界観を構築するに至ったからです。

具体例 (Example)

 具体的には、授乳期間を短縮して出産間隔を縮めるために離乳食が必要になったこと、そしてそのための食料確保や共同保育の過程で、大人同士の緊密なコミュニケーションが不可欠になったことが挙げられます。また、重さのない情報伝達手段である「言葉」の獲得により、聖書にあるように「言葉によってつくられた世界」を信じ、未来を予測し、宗教を誕生させるなど、五感で直接捉えられる世界を超えた領域へと認識を拡大させていったのです。

【2】ロボット工学の視点から見た「人間性」

結論 (Point)

 【2】における人間性とは、人が演劇や日常生活といった社会的環境において、他者の振る舞いという情報を基に、想像力で相手の心を補完し、関係性の中に「心」を見出す能力である。

理由 (Reason)

 心は、脳の中にある実体ではなく、他者との相互作用の中で「感じられる」現象です。人間は、相手の表情、声のトーン、仕草、場の文脈といった断片的な情報から、相手に「心」や「意図」があるかのように無意識に想像し、解釈します。つまり、人間性とは個人の内部に完結するものではなく、他者との関係性によってはじめて立ち現れるものだからです。

具体例 (Example)

 アンドロイド演劇が良い例です。能面のように無表情なアンドロイドでも、役者との会話や物語の文脈の中に置かれると、観客はセリフの「間」や些細な動きといった情報から、アンドロイドが複雑な感情を持っているかのように感じ取ります。これは、観客の想像力がアンドロイドの「人間らしさ」を勝手に補完しているためです。この現象は、私たちが幼児のたわいない仕草を見て「賢い」と感じることと本質的に同じであり、人間性の正体が他者との関係性の中にあることを示唆しています。

【3】神経科学の視点から見た「人間性」

結論 (Point)

 【3】における人間性とは、人が物理的環境と相互作用する際、五感から得られる膨大な情報を、意識にのぼらない脳の領域で自動的かつ効率的に処理し、複雑な身体動作を可能にする無意識の能力である。

理由 (Reason)

 私たちが「意識」している精神活動は、脳全体の活動の氷山の一角に過ぎません。コーヒーカップを持つ、歩くといった日常的な行動は、意識的な指令がなくとも、脳の無数の神経細胞が膨大な計算を瞬時に行うことで成り立っています。この意識下の精緻な情報処理システムこそが、私たちの行動や思考の基盤を形成しており、人間性の根幹をなしているからです。

具体例 (Example)

 自身の体の位置を感じる神経を失ったイアン・ウォーターマン氏の事例が、この事実を明確に示しています。彼は歩くために、足の位置を目で確認し、次の一歩の距離を計算し、バランスを取る腕の角度を考えるなど、全ての動作を「意識的」に行わなければなりません。一瞬でも気をそらせば転倒してしまいます。このことは、健常者が普段、周囲の環境から得られる膨大な情報をいかに無意識下で処理し、当たり前のように行動しているかを浮き彫りにしています。この無意識の脳の力こそが、人間性の驚異的な側面なのです。

【4】哲学の視点から見た「人間性」

結論 (Point)

 【4】における人間性とは、人がモード(流行)に支配された現代の消費環境において、モノの機能ではなくそれに付随する記号的な情報に欲望を刺激され、他者の視線を意識しながら自己イメージを絶えず更新し続ける性質である。

理由 (Reason)

 現代社会において、モノの価値は物理的な有用性だけで決まるわけではありません。人々は、服や車といったモノを、それが持つ社会的イメージや記号的な意味合い、すなわち「モード」を消費するために購入します。他者からどう見られるかという視線を内面化し、社会に流通する理想のセルフイメージに自らを合わせようとする欲望が、人間を常に新しい消費へと駆り立てるからです。

具体例 (Example)

 まだ着られる服が「流行遅れ」という理由で着られなくなったり、車のモデルチェンジのたびに買い替えたくなったりするのが典型例です。これらは、モノの機能的な価値が失われたわけではなく、それが発信する社会的情報が陳腐化したためです。反モードの姿勢ですら「自然派」や「パンク」といった新たなモードとして消費されるように、現代環境に生きる私たちは、意識的か無意識的かにかかわらず、モードという巨大な波の中で、常に「新しい物語」を自らの身体や持ち物で表現しようとする存在なのです。

問1【答案】

【1】霊長類学の視点から見た「人間性」(222字)

 【1】における人間性とは、人がサバンナという厳しい自然環境に適応するため共同体を形成し、言葉という情報を用いて見えない世界を想像し共有する能力である。ゴリラ等と違い、ひ弱な子供を多産する必要から共同保育が始まり、他者への共感力が育まれた。やがて道具や言葉が生まれ、仲間と未来を予測したり、神話を共有したりすることが可能になった。言葉にならない愛情など身体的な感覚も残しつつ、言葉で構築された世界を信じる点に、人間独自の精神性が見出されている。

【2】ロボット工学の視点から見た「人間性」(226字)

 【2】における人間性とは、人が演劇や日常といった社会的環境において、他者の振る舞いという情報を基に、想像力で相手の心を補完し、関係性の中に「心」を見出す能力である。さらに、心は個人の内に実体としてあるのではなく、他者との相互作用の中で「感じられる」ものだと筆者は主張する。例えばアンドロイド演劇では、観客が無表情なロボットの言動から複雑な感情を読み取る。これは観客の想像力が「人間らしさ」を補っているからであり、人間性とはこの相互作用そのものを指す。

【3】神経科学の視点から見た「人間性」(232字)

 【3】における人間性とは、人が物理的環境と関わる際、身体からの膨大な情報を無意識の脳活動で処理する能力である。実際に、私たちが「意識」している精神活動は、脳全体の働きのごく一部に過ぎない。具体的に、コーヒーを飲むなどの日常動作も、膨大な神経計算に支えられているが、私たちはその過程を全く知覚していない。他にも、神経障害で身体感覚を失ったイアン氏が、歩行の一歩ごとに意識的な計算を要する事例は、人間性の基盤がいかに精緻な無意識の働きに依存しているかを物語っている。

【4】哲学の視点から見た「人間性」(240字)

 【4】における人間性とは、人が「モード(流行)」に支配された消費環境下で、モノが持つ記号的な情報に欲望を刺激され、自己イメージを更新し続ける性質である。現代社会では、モノの機能的価値よりも、それが示すイメージや社会的意味が重視されている。なぜなら、まだ使える服や車が「流行遅れ」という理由で価値を失うのは、モノに付与された物語という情報が陳腐化したからである。ゆえに、他者の視線を鏡として、常に新しい自己を演出しようとする欲望こそが、現代における人間性の特徴だと論じられている。

問2【解説】

■ 議論の整理

(共通の前提)

 4つの資料は、霊長類学、ロボット工学、神経科学、哲学という異なる視点から「人間性」を論じている。しかし、いずれも人が、自身を取り巻く環境から得られる情報を独自の仕方で処理し、他者や自己、世界を認識する存在であるという点で共通の前提に立っている。

(議論の論点)

 資料群は、人間性を生物学的・身体的基盤から捉える論(【1】【3】)と、社会的・関係的側面から捉える論(【2】【4】)に大別できる。本稿では、情報技術の進化が著しい未来社会を考察する上で特に重要となる後者、すなわち「他者との関係性の中で心を想像する人間性」【2】と、「モード(流行)という記号に欲望を刺激される人間性」【4】を議論の軸として扱う。

■ 問題発見

(問題の発見)

これからの30年でAIやメタバースが社会に浸透し、コミュニケーションの対象が人間から非人間(AI、アバター)へと拡張する未来が訪れる。そのとき、他者との関係性の中で心を想像し、社会的なモードによって自己を形成してきた私たちの「人間性」はどのように変容するのか。そして、私たちはその変化にどう向き合い、未来社会をよく生きるべきか。

■ 論証→なぜなぜ分析

(論証A) なぜ人間性は変容するのか?

 AIやSNSアルゴリズムが、人間が「心がある」「魅力的だ」と感じやすい情報(常に肯定的で共感的な返答、完璧にパーソナライズされた推薦、理想的な容姿のアバターなど)を、これまでにない精度と速度で効率的に生成・提示するようになるからだ。

(論証B) なぜ効率的な情報提示が人間性を変容させるのか?

 資料【2】が示すように、私たちの人間性は、相手の曖昧で不完全な振る舞いという情報から、その意図や感情を能動的に「想像」することによって育まれてきた。しかし、AIが生成する最適化されすぎた情報を受動的に受け続けると、この「想像の余白」が失われる。結果として、生身の人間が持つ複雑さ、矛盾、不完全さといったノイズの多い情報を受け入れ、理解しようとする想像力が衰退していくからだ。

(論証C) なぜ想像力の衰退が問題なのか?

 資料【4】の論じるように、人間はモード、すなわち社会に流通する理想のイメージに感染し、自己を形成する。今後、AIが生成する「理想的な対話」や「理想の自己像」が強力な新時代のモードとなり、私たちはそれに無自覚に感染するだろう。その結果、現実の人間関係やありのままの自己に満足できなくなり、デジタルな理想と現実との乖離に苦しむことになる。これは、人間性の核である「想像力」が、他者や自己を理解するために能動的に使われるのではなく、AIによって提供されるモードを受容するために受動的にハッキングされる状態であり、人間の精神的自律性を脅かすからだ。

■ 結論

(Cから導かれる結論)

 これからの未来社会をよく生きるためには、AIやデジタル環境が提示する情報を無批判に受け入れるのではなく、その情報がどのようなアルゴリズムや意図によって作られているかを批判的に吟味し、自らの「想像力」を主体的に行使し続ける姿勢が不可欠となる。

(その根拠)

 人間性の本質とは、完成された情報を受け取ることではなく、不完全な現実の中から意味を能動的に想像し、紡ぎだすプロセスそのものにあるからだ。AIとの最適化された関係は便利だが、それはあくまで現実のシミュレーションに過ぎない。生身の人間関係が持つ予測不可能性や、時には非効率な葛藤こそが、私たちの共感力や社会性、ひいては人間性を豊かに育んできたという事実を忘れてはならない。

(その具体例)

 SNSやAIチャットで自分と合う意見や心地よい反応だけを求めるのではなく、意見の違う他者との対話や、意図がすぐには読み取れない芸術作品に意識的に触れる。デジタル上で理想的に加工したアバターやプロフィールと、現実の自己との間に健全な距離を保ち、その差異を自己の多面性として肯定的に受け入れる。

■ 結論の吟味

(他の結論との比較)

「AIやデジタル技術の利用を制限する」という解決策も考えられるが、技術の進化は不可逆的であり、その恩恵を完全に放棄することは現実的ではない。したがって、技術を否定するのではなく、それによって浮き彫りになる人間性の本質を自覚し、技術を「想像力を鍛えるための道具」として主体的に使いこなす「共存」の道を探る方が建設的である。

(最終的な結論の確認)

結論として、これからの30年で私たちの「人間性」は、AIという強力な鏡によってその本質を試されることになるだろう。未来社会をよく生きるとは、技術に人間性の舵取りを委ねることではない。AIが提示する最適化された環境の中でも、あえて非効率で予測不能な生身の人間関係に価値を見出し、そこに身を置く勇気を持つこと。それこそが、情報化社会において私たちの「人間性」をより豊かに保ち、未来を主体的に生きるための鍵となるだろう。

問2【答案】(997字)

 4つの資料は異なる視点から「人間性」を論じるが、いずれも人が環境からの情報を処理し、世界を認識する存在である点で共通する。その上で、情報技術の進化が著しい未来を考察するため、社会的・関係的側面を論じる資料2の「関係性の中で心を想像する人間性」と資料4の「モードに欲望を刺激される人間性」を議論の軸とする。
 では、これから30年でAIやメタバースが社会に浸透し、コミュニケーションの対象が人間から非人間へと拡張する未来において、私たちの「人間性」はどのように変容するのか。そして、私たちはその変化にどう向き合い、未来をよく生きるべきだろうか。
 その変容の背景には、AIやアルゴリズムが、人間が感じやすい情報を効率的に生成・提示する現実がある。肯定的で共感的な返答や、完璧にパーソナライズされた推薦は、その一例だ。
 しかし、この効率性は私たちの人間性を根底から揺るがす。資料2が示すように、私たちの人間性は、相手の曖昧で不完全な情報から、その意図や感情を能動的に想像することで育まれてきた。AIが生成する最適化されすぎた情報を受動的に受け続けると、生身の人間の複雑さや矛盾を受け入れ、理解しようとする想像力が衰退していくのだ。
 そして、このような想像力の衰退は、精神的自律性を脅かす事態へと発展する。資料4が論じたように、人間は社会が流通するイメージに感染し、自己を形成する。今後、AIが生成する理想形が強力な新時代のモードとなり、私たちはそれに無自覚に感染するだろう。これは、人間性の核である想像力が、AIにハッキングされる状態に他ならない。
 従って、未来をよく生きるためには、提示された情報を無批判に受け入れるのではなく、その裏にある意図を批判的に吟味し、想像力を主体的に行使し続ける姿勢が不可欠となる。なぜなら、人間性の本質とは、完成された情報を受け取ることではなく、不完全な現実の中から意味を能動的に想像し、紡ぎだすプロセスそのものにあるからだ。
 以上の考察から、未来社会を生きるとは、技術に人間性の舵取りを委ねることではない。技術の利用を制限するのは現実的ではないが、その共存のあり方は問われねばならない。AIが提示する最適化された環境の中でも、あえて非効率で予測不能な生身の人間関係に価値を見出し、そこに身を置く勇気を持つことこそが、未来でも私達の人間性を豊かに保つ鍵となるのである。

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