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【慶應SFC 小論文】慶應義塾大学 総合政策学部 2011年 小論文 過去問解説

問1【解説】

 2011年度慶應義塾大学総合政策学部の小論文問題(問1)について、5STEPsに沿って解説します。この問題は、複数の資料から現代日本の課題を多角的に読み解き、自分なりの「良い日本」を構想し、その実現プロセスまで論理的に示す能力を測るものです。

■ 議論の整理

まず、答案を作成する前に、与えられた資料群が何を問題にしているのかを整理します。

課題文の内容の要約

複数の資料は、現代日本が直面する複合的な危機を描き出しています。経済面では、国際競争力が低下し、アジア諸国に追い上げられています(資料2)。社会面では、国民の生活満足度が低迷し、「豊かさ」が必ずしも幸福に結びついていません(資料3)。その背景には、企業組織が陥った「部分最適」の弊害(資料4)や、社会全体で「何が良い社会か(共通善)」という根本的な問いを議論してこなかったことがあります(資料5)。
これらの問題を乗り越えるためには、従来の価値観や学問のあり方を見直し、物事を「俯瞰的」に捉え(資料1)、未来の「あるべき姿」を能動的に構想し実現していく「設計科学」のアプローチが必要だと示唆されています(資料6)。

共通の前提

全ての資料に共通しているのは、「現代日本および世界は大きな転換期にあり、従来のやり方や価値観では立ち行かない」という危機感です。経済成長だけを追い求めるモデルは限界を迎え、新しい社会のビジョンが求められています。

議論の論点(対立軸)

 資料群からは、以下のような対立軸を読み取ることができます。この対立軸を意識することで、自分の主張を明確にできます。

経済成長至上主義(GNP) vs 持続可能で幸福な社会(GNH):

 経済的な豊かさを追求すべきか、それとも精神的な幸福や環境との調和を含む、より多面的な豊かさを目指すべきか。(資料2, 3, 5)

部分最適 vs 全体最適:

 個々の組織や個人の利益追求が社会全体の利益につながるのか、それとも社会全体の調和や利益を考えて行動すべきか。(資料1, 4)

現状分析(認識科学) vs 未来構想(設計科学):

 「今どうなっているか」を分析するに留まるのか、「これからどうあるべきか」を主体的にデザインしていくのか。(資料6)

■ 問題発見

この小論文で答えるべき問題の設定

上記の整理を踏まえ、この小論文で自分が取り組むべき中心的な問いを設定します。この問いが、800字の論述の背骨となります。

問い(例):

 「経済的な豊かさの追求が行き詰まり、国民の幸福感も低下している現代日本において、私たちはどのような価値観に基づき、いかなる社会を『良い日本』として構想し、その実現に向けて行動すべきか?」

■ 論証→なぜなぜ分析

設定した問いに答えるため、なぜ日本が現状のような課題を抱えるに至ったのか、その原因を深く分析します。ここでは「なぜなぜ分析」の思考法が有効です。

(論証A) なぜ日本は停滞しているのか?

→ 企業の国際競争力が低下したから。

(論証B) なぜ企業の競争力が低下したのか?

→ 90年代以降、経営が目先の利益を追求する「部分最適」に陥り、本来の強みであった組織全体のチームワークやイノベーションを生み出す力が失われたから。

(論証C) なぜ社会全体が「部分最適」に陥ったのか?

→ 経済成長(GNP)という単一の指標を社会全体の目標としてきた結果、より高次の目標である「共通善(どのような社会が望ましいか)」についての議論を怠ってきたから。 各自が目先の利益という「部分」に集中し、社会全体の調和や持続可能性、人々の精神的な幸福といった「全体」の価値が見失われた。

■ 解決策

 上記の論証(原因分析)から、問いに対する答え、すなわち「良い日本」のビジョンと実現策を導き出します。

1)どのような日本が良い日本か?(結論)

 論証C(根本原因)を裏返すことで、目指すべき日本の姿が見えてきます。

結論:

 単に経済的に豊かなだけでなく、多様な価値観が尊重され、一人ひとりが幸福を実感できる、持続可能な社会。

根拠:

 これは、経済・文化・環境・統治のバランスを重視するブータンのGNHの理念(資料3)、市民が対話を通じて「共通善」を探求する社会(資料5)、そして人間と自然が共生できる新しい規範を持つ社会(資料1) を統合したビジョンです。

2)その根拠となる価値観は?

上記の「良い日本」を支える中心的な価値観を明確にします。
価値観: 「全体最適」と「持続可能性」。
根拠: 経済、環境、文化、個人の幸福といった多様な要素の調和を目指す「全体最適」の考え(資料1, 4)と、目先の利益だけでなく将来世代や地球環境との共生を考慮する「持続可能性」の考え(資料1, 6)が、新しい社会の基盤となるべきです。

3)実現のプロセスと自身ができること

プロセス:
対話による価値の創造:

 まず、市民、企業、政府など様々な主体が、「良い社会とは何か」を公の場で議論し、社会が目指すべきビジョン(価値命題)を共有します(資料5, 6)。

ボトムアップでの実践:

 地域コミュニティや企業単位で、そのビジョンに基づいた具体的なプロジェクト(例:再生可能エネルギーの導入、独自の幸福指標の作成など)を実験的に行い、試行錯誤を繰り返します。

教育と制度の変革:

 成功事例を政策に反映させると同時に、教育の場で、複雑な問題を多角的に捉えられる「全体最適型」の人材を育成します(資料4, 5)。

自身ができること/したいこと:
学ぶ:

 大学で総合政策学を学び、文理の枠を超えた知識を統合し、社会問題を俯瞰的に捉える能力を身につける。

対話する:

 多様な背景を持つ人々と「正義」や「幸福」といった根源的なテーマについて議論する場に積極的に参加し、自らの考えを深める。

実践する:

 地域社会が抱える課題など、身近な問題の解決に挑戦するプロジェクトを立ち上げ、「設計科学」の考え方に基づき、あるべき姿を構想し実現する経験を積む。

■ 解決策の吟味

 最後に、自分の提案が独りよがりなものでないか、客観的に検証します。

他の解決策との比較

 例えば、「強力なリーダーによるトップダウン改革」は迅速かもしれませんが、国民の合意がなければ持続しません。私が提案する市民の対話と実践を重視するボトムアップのアプローチは、時間はかかりますが、多様な価値観を反映した、より強靭で納得感のある社会変革につながるという利点があります。

最終的な結論の確認

 以上の考察を経て、最終的な主張をまとめます。

 私がデザインする「良い日本」とは、経済成長のみならず、持続可能性と全体最適の価値観に基づき、市民一人ひとりが対話を通じて「共通善」を追求し、幸福を実感できる社会である。その実現には、私自身が大学で俯瞰的な視野を身につけ、社会での対話と実践に主体的に関わっていくことが不可欠だと考える。

問1【答案】(792字)

 現代日本は、国際競争力の低下と国民の幸福感の低迷という課題に直面している。経済成長が必ずしも幸福に結びつかないこの現実は、ブータンのGNHのような新たな価値基準の必要性を示唆しており、我々はどのような価値観に基づき、いかなる日本社会を構想すべきかという問いを突きつけられている。
 そもそも、なぜ日本はこの複合的な停滞に陥ったのか。一因は、多くの企業が「部分最適」に陥り、異質な知の融合を阻害しイノベーションの芽を摘んできた点にある。更に根源をたどると、社会全体が経済成長のみを追求し、より高次の目標である「共通善」、すなわち「どのような社会が望ましいか」という公の場での議論を怠ってきた事に突き当たる。その結果、各主体が個別の利益に固執し、社会全体の調和や持続可能性という視点が見失われた。
 そこで、単なる経済規模の追求から脱却し、多様な価値観が尊重され、各々が幸福を実感できる「持続可能な共生社会」を良い日本としてデザインする。その社会の根幹となる価値観は全体最適と持続可能性である。経済活動、自然環境、文化、個人の幸福といった多様な要素が調和する全体最適の視点と、有限な地球の資源を前提とし将来世代への責任を果たす持続可能性の視点こそが、今後の社会の羅針盤となるべきである。
 従って、このビジョンの実現には、まず市民や企業、政府など多様な主体が対話を通じて「あるべき姿」を構想し、その価値命題を共有するプロセスが不可欠だ。その上で、壮大なトップダウン改革を待つのではなく、地域社会などの小さな単位から新しい価値観に基づいた実践をボトムアップで積み重ねるべきである。この社会変革の担い手として、大学で文理の枠を超えて社会問題を俯瞰的に捉える設計科学のアプローチを体得しする。そして多様な人々と対話し、課題解決のプロジェクトを自ら設計・実践する事で、未来をデザインする当事者となる。

問2【解説】

  問2は、問1を解く際に自分自身がどのような思考プロセスを辿ったかを客観的に分析し、それを「総合政策学的アプローチ」という言葉で定義し直す、自己分析能力と概念化能力を問う問題です。

  5STEPsに沿って、問2の解答の組み立て方を解説します。

■ 議論の整理

 この設問では、分析すべき文章(課題文)がありません。分析対象は「問1を解答した、あなた自身の思考プロセス」そのものです。

問題を解く上で前提となる事実のまとめ

 まず、問1を解くにあたり、与えられた資料群からどのような社会の現状と課題を読み取ったかを思い出します。

事実①:

 日本社会は、経済的指標の低下(資料2)と国民の幸福度の低迷(資料3)という複合的な課題に直面している。

事実②:

 その背景には、個々の最適化ばかりを追求する「部分最適」の思考(資料4)や、現状を分析するだけの「認識科学」に偏り、あるべき姿を描く「設計科学」の視点が欠けているという問題がある(資料6)。

事実③:

 課題解決には、物事を俯瞰的に捉え(資料1)、何が善い社会かを市民が議論し(資料5)、新しい価値を創造していく姿勢が求められている。

■ 問題発見

この小論文で答えるべき問題の設定

 上記の事実を踏まえ、問1という複雑な課題を解決するために、自分はどのような思考法を用いたのか。それを言語化・定義することがこの設問の中心的な問いとなります。

問い(例):

 「経済、社会、環境といった複数の領域にまたがる現代日本の複雑な課題を分析し、独自の解決策を構想するために、私はどのような思考法を用いたのか。そして、その思考法こそが『総合政策学的アプローチ』であると、いかに論証できるか?」

■ 論証→演繹法

 ここでは、自分の思考プロセスを客観的に示す必要があります。テンプレートの「演繹法」を用いて説明するのが効果的です。

ルールを定立する(自分のアプローチの定義)

 ここでは、私の「総合政策学的アプローチ」を『複雑な社会現象の中から根本的な問題を発見し、理想となる未来像を主体的に「設計」し、その実現プロセスまでを構想する一連の思考法』と定義する。

具体例を紹介する(問1での自分の思考を振り返る)

 たとえば、問1の解答を作成する過程で、私は単に資料2の経済指標の悪化だけを問題視しなかった。

具体例をルールに当てはめる(思考と定義を結びつける)

 なぜなら、私の思考は、まず経済指標(資料2)と幸福度の低迷(資料3)、企業組織の弊害(資料4)を横断的に捉え、問題の根源が「部分最適の蔓延」にあると発見した(問題発見)。次に、その発見に基づき、GNH(資料3)や共通善(資料5)の考え方を参考に、「持続可能な共生社会」という理想の未来像を「設計」した(未来像の設計)。そして最後に、その実現のためにボトムアップの対話や教育の重要性を論じ、実現プロセスまでを構想した(実現プロセスの構想)からである。このように、私の思考プロセスは先に定立したルールの各段階と一致する。

■ 結論

 論証で示した内容をまとめ、改めて自分の「総合政策学的アプローチ」が何であるかを端的に結論づけます。

結論:

 以上の論証から、私の「総合政策学的アプローチ」とは、現状分析に留まらず、分野横断的な視野で問題の根源を発見し、あるべき社会の姿を主体的に設計・構想する、未来志向の価値創造プロセスであると結論できる。

■ 結論の吟味

結論の妥当性を補強するため、自分のアプローチがなぜ優れているのかを、資料中の他のアプローチと比較して示します。

他のアプローチとの比較

 このアプローチは、単一の学問分野に閉じこもり、客観的な分析に終始する従来の「認識科学」的アプローチとは一線を画す。それは、資料で示された現代の複雑な危機(Emerging Crises)に対して、より実践的かつ有効な解を導き出すことができる、まさに「社会のための科学」を体現するものである。

 このように、自身の思考を振り返り、それを資料中の概念と結びつけて再定義することで、説得力のある解答を作成することができます。600字という短い字数なので、図を用いて思考のフロー(例:問題発見→未来設計→プロセス構想のサイクル図)を示すのも有効な手段です。

問2【答案】(599字)

 私の「総合政策学的アプローチ」とは、複雑な社会現象の中から根本的な問題を発見し、あるべき未来像を主体的に「設計」し、その実現プロセスまでを構想する実践的な思考法であり、福沢諭吉の言う「実学」の精神にも通底する。
 なぜなら、問1の解題過程で、私は経済指標の低下 と国民の幸福度の低迷、そして企業の活力喪失 といった一見無関係に見える事象を多角的に結びつけ、根源に「部分最適」の思考が蔓延しているという構造的問題を発見したからだ。これは、単一の学問分野では見過ごされがちな、鳥の目と虫の目を往復する問題発見プロセスだ。
 そして、このアプローチは、現状を分析する「認識科学」 の段階に留まらない。発見した問題に対し、何が正義か、何が良い社会かという問い を立て、GNHの理念 などを参考に、「持続可能な共生社会」という新たな価値命題を能動的に「設計」する未来志向の営みだ。それは、事実命題の検証だけでなく、主体的な価値命題の積極的な創造と検証を志向するものだ。
 したがって、私の総合政策学的アプローチとは、分野横断的な視野での問題発見から、未来を形作る価値設計、そして実現プロセスの構想までを一体として捉える循環的なプロセスである。それは、単なる評論家ではなく、自らが変革の当事者として課題解決に臨む方法論であり、現代が直面する複雑な危機 に対して有効な解を導き出す「社会のための科学」 の実践である。

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