問1-1【解説】
1. 問題の把握
問一は、傍線部①「ことばがあるからこそ身体は進化できる」 という筆者の考えについて、400字以内で説明することを求めています。
2. 本文中の該当箇所の特定
この筆者の考えが具体的に説明されているのは、課題文の6ページ目から7ページ目にかけてです。
3. キーポイントの抽出
「身体」の限界:
まず、「身体」は全体性で機能するシステムであり、特定の支配的な体感や対処法から抜け出せない「ローカルミニマム」に陥りやすいと筆者は指摘しています。
「ことば」の力:
一方、「ことば」は物理的な存在ではないため、地球の重力や環境の縛りから自由であり、「連想」という技によって自由に飛翔できると述べています。
進化のメカニズム:
筆者は、「身体」が「ことば」の力を借りる(=記号接地を活用する)ことで進化が起こるとしています。
具体的なプロセス:
- 「身体」に「体感a」が生じ、それが「表現A」(ことば)に紐づいています(記号接地)。
- 「ことば」の自由な「連想」によって、「表現A」から全く別の「表現B」が想起されます。
- 「表現B」には「体感b」が紐付いています。
- これにより、「身体」は、本来なら比較しなかったであろう「体感a」と「体感b」を突き合わせ、比較・関連づけようという「新しい意図」を得ます。
結論(進化):
この「新たな意図」が「新たな模索」につながり、その結果として「身体」はローカルミニマムから抜け出し、突然変異的な(抜本的な)進化を遂げることができます。
4. 解答の構成
上記で抽出したキーポイント(「身体」の限界、「ことば」の力、両者の相互作用による「新たな意図」の発生、そして「ローカルミニマム」からの脱出)を、論理的な順序で400字以内にまとめます。
問1-1【解答】(376字)
筆者の考えでは、「身体」は全体性で機能するゆえに、特定の支配的な体感や対処法から抜け出せない「ローカルミニマム」に陥りやすい性質を持つとされている。一方で、「ことば」は物理的な制約がなく、「連想」によって自由に飛翔できる力を持っている。ゆえに、身体は、この「ことば」の力を借りる。すなわち、「ことば」による記号接地を活用することで身体は進化できる。具体的には、ある「体感a」に紐づく「表現A」から、「ことば」の連想によって別の「表現B」が想起されると、その裏にある「体感b」に「身体」が気づく。このことにより、本来比較しなかった二つの体感を比較・関連づけるという「新たな意図」が生まれて、新たな模索が始まる。この「ことば」の力によって得られた新たな意図と模索こそが、「身体」をローカルミニマムから脱出させ、抜本的・突然変異的な進化を可能にするのである。
これは、上智大学総合人間科学部心理学科の2024年度外国人入学試験の【一】問二ですね。解答プロセスと解答例を作成します。
問1-2【解説】
1. 問題の確認
問二は、本文(2ページ目)にある空欄[ ① ] に入る最も適切な語句を、5つの選択肢から選ぶ問題です。
2. 空欄前後の文脈の分析
空欄のある箇所は以下のように記述されています。
ちなみに、わたしたちは、体感や生活背景・状況に接地せず
にことばを使ってしまうことも、ときにはある。いわゆる
[ ① ] だ。インターネットで仕入れたりひとから聞いたりし
たことばやフレーズを、単に耳当たりがよいから、格好いいか
らと、自分の身体のフィルターを通さずに右から左へと横流し
するように使ってしまう。
ここで筆者は、「記号接地」をしていない言語行為について説明しています。
- 接地していないとは、「体感や生活背景・状況に接地せず」使うことです。
- 具体的には、「インターネットで仕入れたりひとから聞いたりした」ことばを、
- 「自分の身体のフィルターを通さず」、
- 「右から左へと横流し」するように使うこと、と定義されています。
3. 選択肢の検討
この文脈に最も当てはまる言葉を選びます。
1. 「言語道断」(ごんごどうだん):
言葉で言い表せないほどひどい、もってのほかだ、という意味。文脈に合いません。
2. 「安物買い」(やすものがいい):
安いものを買うこと(多くは「安物買いの銭失い」として使われる)。全く関係ありません。
3. 「気取り屋」(きどりや):
格好をつける人、上品ぶる人。文脈では「格好いいから」 という動機には触れられていますが、その行為自体を指す言葉としては不適切です。「気取り屋」は行為ではなく「人」を指します。
4. 「漁夫の利」(ぎょふのり):
両者が争っている間に、第三者が利益を得ること。全く関係ありません。
5. 「受け売り」(うけうり):
他人から聞いた知識や意見を、そのまま自分のものとして話すこと。
- 結論の導出
文脈が示す「ひとから聞いたりしたことばやフレーズを、自分のフィルターを通さずに横流しする」 という行為は、まさに「受け売り」の意味(他人から得たものをそのまま自分のものとして使うこと)と完全に一致します。
問1-2【解答】
5(「受け売り」)
問1-3【解説】
1. 問題の確認
問三は、本文(5ページ目)にある空欄[ ③ ] に入る最も適切な語句を、5つの選択肢から選ぶ問題です。
2. 空欄[ ③ ]の箇所と文脈の分析
空欄[ ③ ]は、本文5ページ目にあります。
「これが、ことば(ある特定の表現)が身体から生まれた瞬間、つまり記号接地である。「ことば」は「身体」を [ ③ ] 征服できたぜ!と喜ぶのである。」
この文に至るまでの文脈を分析します。
- 筆者は、「ことば」が「身体」が為していること・感じていることを「完璧に表現することは叶わない」と述べています。
- しかし、「ことば」はストイックな性格で、表現と現実の差異に愕然とし、比喩などを用いて新たな表現を模索します。
- 「どう七転八倒したところで、「身体」を完璧に表現し尽くすことはありえない」としながらも、「少しずつ表現のパーセントを上げる」ことができたと実感したところで「手を打つ」とあります。
- この「手を打った」状態(=記号接地)をもって、「ことば」は「征服できたぜ!」と喜ぶわけです。
3. 結論の推論
以上の文脈から、「ことば」による「身体」の「征服」は、完璧・完全なものではないことがわかります。あくまで「七転八倒」 の末に、不完全ながらも「少しずつ」 表現できた、という妥協点(手を打つ)に過ぎません。
4. 選択肢の検討
この文脈に合うものを選択肢から選びます。
1. とことん:
「完璧には表現し尽くせない」 という記述と矛盾します。
2. たやすく:
「七転八倒したところで」 や「執拗で、ストイックな性格」 という記述から、容易ではないことがわかり、矛盾します。
3. ある程度:
「完璧ではない」 が「少しずつ表現のパーセントを上げる」 ことで「手を打つ」 という、不完全ながらも部分的な成功を収めた状態を正しく示しています。
4. 瞬く間に:
「七転八倒」 という言葉の通り、時間がかかる困難なプロセスであり、矛盾します。
5. 物理的に:
「ことば」と「身体」の物理的な征服関係の話ではなく、文脈に合いません。
5. 最終決定
文脈上、「完璧ではないが、一定の成果はあった」という意味が最も適切であるため、「ある程度」が正解となります。
問1-3【解答】
3(ある程度)
問1-4【解説】
1. 問題の確認
問四は、傍線部④「共通の側面」とは何かを、100字以内で説明する問題です。
2. 傍線部周辺の文脈の分析
- 筆者は、かつて日本酒や珈琲の「酸味」を嫌っていました。しかし、「酸っぱさ」という「ことば」をきっかけに、サラダドレッシングなど「好きな酸味」もあると気づきます。
- そこで筆者は、「嫌いな酸味」(体感a)と「好きな酸味」(体感b)を「身体」レベルで比較します。
- その結果、「両者の体感がかなり異なること」に気づくと同時に、「でもどこかに共通の側面がないこともないこと」にも気づき始めます。
3. 「共通の側面」の特定
筆者は、この比較検討の結果を「ことば」で表現しようとし、次の結論に達します。
「酸味が嫌いなわけではなく、それを感じる口腔内の位置と、口腔内での動きが重要なファクターかもしれない」
この直後、筆者は「嫌いな酸味」(喉の奥や舌の脇へ突き進む)と「好きな酸味」(舌の中央や先に留まる)の違いを、まさに「位置」と「動き」を用いて説明しています。
したがって、ここでいう「共通の側面」とは、両者の体感が異なってはいるものの、どちらも「口腔内の位置」と「口腔内での動き」という共通の評価軸(ファクター)によって特徴づけられるという側面を指しているとわかります。
4. 解答の作成(100字以内)
上記の内容を100字以内にまとめます。
要素1:
「嫌いな酸味」と「好きな酸味」の体感であること。
要素2:
両者は異なるが、共通して「口腔内の位置」と「口腔内での動き」が重要な要因(ファクター)となっていること。
問1-4【解答】(98字)
筆者が嫌っていた酸味の体感と好んでいる酸味の体感はそれぞれ異なってはいるものの、どちらの体感もその感覚を感じる「口腔内の位置」と「口腔内での動き」が、その体感を決定づける重要な要因となっている点。
問1-5【解説】
1. 問題の確認
問五は、本文(8ページ目)にある空欄[ ⑤ ] に入る最も適切な語句を、5つの選択肢から選ぶ問題です。
2. 空欄[ ⑤ ]の箇所と文脈の分析
空欄[ ⑤ ]は、本文8ページの筆者の具体例(日本酒と珈琲の酸味)の結論部分にあります。
「それ以降、日本酒や珈琲の選び方、味覚体験が一変することになった。食材を味わい体感を抱く「身体」も、それを表現する「ことば」も [ ⑤ ] な進化を遂げたのだ。」
この文は、筆者が「酸っぱさ」という「ことば」を手がかりに、それまで「嫌い」だと思い込んでいた「身体」の体感を問い直し、比較検討した結果、味覚体験が「一変」した ことを示しています。
3. 関連箇所の参照
筆者はこの具体例の前に、「身体」が「ことば」の力を借りることで(=記号接地を活用することで)、それまで陥っていた「ローカルミニマム」(ある特定の状態から抜け出せないこと)から脱出し、「ある日突然急激な進化」 や「突然変異的な進化」 を遂げることができる、と理論的に説明しています。
4. 選択肢の検討
筆者の体験(味覚体験が「一変」した)は、まさにこの理論(「ローカルミニマム」からの「急激な」「突然変異的な」脱出)の具体例です。この文脈に合う言葉を選びます。
1. 外的:
進化は筆者の内面(体感と認知)で起こっており、不適切です。
2. 劇的:
「劇的」は変化が急激で著しい様子を指します。味覚体験が「一変」 し、ローカルミニマムから脱して「急激な進化」 「突然変異的な進化」 をしたという文脈に、完全に一致します。
3. 知的:
進化は「ことば」だけでなく「身体」も遂げており、知的な側面(ことば)と身体的な側面(体感)の相互作用によるもの です。「知的」だけでは不十分です。
4. 端的:
進化の様子を表す言葉として不適切です。
5. 静的:
進化(変化)とは逆の意味であり、不適切です。
5. 最終決定
文脈上、「一変した」 や「急激な進化」 を最もよく表す言葉は「劇的」です。
問1-5【解答】
2(劇的)
問2-1【解説】
1. 問題の確認
問一は、傍線部①「このように、認知症の人の行動と、介護する人の行動はすれ違っていきます。」 とはどういうことか、著者がそう感じた具体的な出来事をもとに、200字以内で説明することを求めています。
2. 該当する「具体的な出来事」の特定
傍線部①の直前には、著者の「祖母」が起こした「鍋の一件」が具体例として詳しく書かれています。これが設問の求める「具体的な出来事」です。
3. 出来事の分析(すれ違いの構造)
本文の記述から、「介護する人(母)」と「認知症の人(祖母)」の行動と思考を整理します。
介護する人(母)の行動と思考:
出来事:
祖母が鍋を火にかけたまま忘れ、火事になりかけた。
行動:
祖母を厳しく責めた(「なんでこんなことをしたの?」)。
意図:
鍋を焦がしたこと自体よりも、「火事になったらどうするのか」という危険な行為を問題にしており、二度としないでほしいという意図があった。
認知症の人(祖母)の行動と思考:
状態:
自分がしたことを覚えていない(記憶障害)。
解釈:
母の叱責の意図(危険性の指摘)を理解できなかった。
行動:
母の言葉の表面だけを捉え、「鍋が使い物にならなくなったから新しいものを買わなくては」と考えた。その結果、翌朝一人で鍋を買いに行き、道に迷ってしまった。
4. 「すれ違い」の核心の抽出
すれ違いの核心は、「母は危険な行為そのものを案じて叱責した」 のに対し、「祖母は鍋が使えなくなったことを叱責されたと誤解し、新しい鍋を買いに行くという行動に出た」 という点です。
5. 解答の構成(200字以内)
上記3と4の要素を簡潔にまとめます。
- 祖母が鍋を焦がした出来事
- 母は火事の危険性を案じ、二度とそのような危険なことをしないでほしいという意図で祖母を責めた
- 祖母は母の意図を理解できず、言葉の表面だけを捉え、鍋を買いに行かなくてはと思い込んだ
- 危険な行為を叱責する母と、鍋を買いに行こうとする祖母の行動・解釈が食い違っていること。
問2-1【解答】(197字)
祖母が鍋を火にかけたまま忘れ焦がした時、母は火事の危険を案じ、「二度と危険な行為をしてほしくない」という意図で強く叱った。しかし認知症の祖母は母の意図を理解できず、叱責の理由を「鍋を焦がしたから」と誤って受け取り、新しい鍋を買わなくてはと思い込んで外出し、迷子になった。つまり、母は危険性を指摘したのに対し、祖母は表面的な意味しか理解できず、双方の行動や考えが大きくすれ違ってしまうことを示す。
問2-2【解説】
1. 問題の確認
問二は、傍線部②の「MCI」とはどのような状態か、本文の記述に基づいて300字以内で説明することを求めています。
2. 本文中の「MCI」に関する記述の特定
本文から「MCI」を定義・説明している箇所をすべて探し、キーポイントを抽出します。
定義:
「MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)」。
位置づけ:
「健常な人と認知症の人の中間の段階、いわばグレーゾーン」。
診断基準(1):
「認知機能が低下している自覚がある、もしくは周囲がそれを感じている」。
診断基準(2):
「検査をすると年齢相応よりも成績が悪い」。
診断基準(3):
「認知症ではない」。
日常生活:
「MCIの段階では会話も普通にできますし、日常生活に支障もありません」。
主な症状(健忘型):
「ほとんどの場合、物忘れが目立ちます」。
その他の症状:
「物忘れのほかにも、(中略)複雑なことがうまくできなくなります」。
3. 解答の構成(300字以内)
上記のキーポイントを論理的に再構成します。
- まず、MCIが「軽度認知障害」であり、健常者と認知症の中間段階(グレーゾーン)であることを定義します。
- 次に、診断基準(本人の自覚や周囲の気づき、検査結果が年齢相応より悪いこと、しかし認知症ではないこと)を説明します。
- 最後に、日常生活への影響(支障はないが、物忘れが目立ったり、複雑な作業が困難になったりすること)を補足します。
4. 字数の調整と推敲
構成した文章を300字以内に収まるよう簡潔にまとめます。
問2-2【解答】(291字)
MCIとは、軽度認知障害のことであり、健常な人と認知症の中間に位置する、いわばグレーゾーンの状態を指す。本人に認知機能の低下の自覚がある、または周囲がその変化に気づいていることに加え、検査では年齢相応より成績が悪いという客観的な低下が見られる。しかし認知症と診断されるほどではなく、会話も普通にでき、日常生活にも大きな支障はない。多くの場合、物忘れが目立ち、同じことを繰り返し尋ねたり予定を忘れたりする。また、複雑な家事や手順の多い作業が難しくなることもある。以上のように、MCIは生活機能を保ちながら認知機能の低下が始まっている段階であり、認知症へ進行する可能性を含む状態である。



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