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上智大学 総合人間科学部 心理学科 帰国生入試 2020年 過去問解説

問1-1【解説】

設問の分析

問い:

 本文における「ファーストコンタクト」が人類にどのような影響をもたらしたか。

要求事項:

 「肯定的影響」と「否定的影響」の両方について述べること。

文字数:

 合わせて400字程度。

本文からの情報抽出

 設問の要求に合わせて、本文中から「肯定的影響」と「否定的影響」に関連する記述を抜き出します。

否定的影響 (-)

  • 接触した側の文化が変容・破壊された。「宣教師や政府の役人がここを訪れ、食人俗、部族間の戦争、一夫多妻などの長きにわたって続けられてきた習慣をやめさせ、高地人の文化を変えていった」。
  • 独自の世界観が失われた。「彼らと彼らの隣人はもはや唯一の人類ではなくなり、彼らの生き方もまた唯一のものではなくなっていた」。
  • 文化的多様性が失われた。「数千年におよぶ隔離の期間に育まれた文化的な多様性の多くが、遠隔地の人びとと接触したことによって徐々に消し去られていった」。
  • 言語が消滅し、それに伴い独自の思考方法や世界観を知る手段が失われた。「言語が死に絶えてしまうとは、かつてその言葉を話していた人たちが抱いていた独自の世界観を知る手段さえ失ってしまうことになる」。
  • 現代社会の問題解決のヒントとなり得た「人間社会の代替モデル」が失われた。「こうした個々の問題に対し、はるかに優れた解決策をもっているニューギニアの社会はひとつや二つではない」。

肯定的影響 (+)

  • 優れた道具の導入により、物質文化に革命がもたらされた。「鉄製の斧のような道具が、石の斧よりも優れている事実はたちどころに受け入れられた」。
  • 文化の融合により、他者への恐怖や憎しみを克服し、地球規模の共同体意識が生まれる希望がある。「自分を地球規模で共有する同じ文化の一員だと見なすことこそ、それに対する最善の方法」。
  • (上記に関連して)核兵器時代において、文化的多様性の消失は人類が生き残るための代償かもしれない、という未来への肯定的な側面が示唆されている。「文化の多様性が消えていくということは、私たちが生き残るために払わなくてはならない代償なのかもしれない」。

解答の構成

 抽出した情報を基に、400字程度の文章を組み立てます。

序盤(否定的な影響):

 まず、最も大きな否定的影響である「多様性の喪失」を主題として記述します。具体例として、独自の言語、文化、社会慣習が失われたことを挙げます。これにより、多様な世界観や現代社会が抱える問題への解決策となり得た社会モデルも失われたとまとめます。

中盤(肯定的な影響):

 次に、肯定的な影響について記述します。鉄製の斧に代表されるような便利な道具がもたらされ、物質的な生活が向上した点を挙げます。

終盤(肯定的影響の発展と結論):

 さらに大きな視点として、文化の融合が「よそ者嫌い」を克服させ、人類が地球規模の共同体として一体感を持ち、生存していくための希望となり得るという筆者の考えを述べます。

結論:

 最後に、ファーストコンタクトは多様性を失わせるという否定的な側面を持つ一方で、人類全体の生存という肯定的な未来につながる可能性も秘めている、と両論を併記して締めくくります。

問1-1【解答】 (384字)

ファーストコンタクトは、人類社会に否定的・肯定的な両側面から大きな影響を与えた。否定的な影響は、接触によって隔離された社会が育んできた文化的多様性が失われたことである。具体的には、鉄製の斧のような優れた道具が受け入れられる一方で、独自の言語や世界観、社会慣習が失われた。これは、現代社会が抱える問題への解決策となり得たかもしれない「人間社会の代替モデル」の喪失をも意味した。一方で肯定的な影響は、文化の融合が進むことで、人々が互いへの恐怖や憎しみを克服する可能性が生まれた点である。筆者は、核兵器を保有する現代において、人々が自らを地球規模の文化の一員と見なすことは、人類が種として生き残るための最善の方法かもしれないと示唆している。したがって、ファーストコンタクトは豊かな多様性を失わせるという大きな代償を伴うものの、人類全体の生存という希望をもたらすものであった。

問1-2【解説】

設問の分析

問い:

 傍線部「ほかの面ではまったく望ましくはない」とはどういうことか。

要求事項:

 傍線部の意味を具体的に説明すること。

文字数:

 60字程度。

本文からの情報抽出

 傍線部が含まれる段落の内容を正確に読み解くことが鍵となります。

傍線部の直前の文:

 「言語が少なければ世界中の人びとが意思を交わしやすくなるので、消滅はむしろいいことではないのかとも考えられる。そうかもしれないが、」

  • この文は、「言語の消滅」には「意思疎通が容易になる」という一見肯定的な面があることを示しています。

傍線部とその直後の文:

 「ほかの面ではまったく望ましくはないのだ。言語はそれぞれ構造や語彙が異なっている。感情や因果関係や個人的な責任をどう表現するかという点でも異なる。人間の思考をどう形づくるのかという点でも言語によって異なる。…言語が死に絶えてしまうとは、かつてその言葉を話していた人たちが抱いていた独自の世界観を知る手段さえ失ってしまうことになるのだ。」

  • この部分が、「望ましくない」理由を具体的に説明しています。
  • 要点をまとめると以下のようになります。
  • 各言語には、固有の構造、語彙、表現方法がある。
  • 言語は、人間の思考のあり方を形づくる。
  • したがって、言語が一つ消滅することは、その言語が内包していた独自の思考法や、話者が抱いていた独自の世界観を知る手段までもが永遠に失われることを意味する。

解答の構成

 抽出した要点を、60字程度という短い文字数に収まるように簡潔にまとめます。以下の要素を60字程度に収まるように言葉を調整します。

主題:

 何が望ましくないのかを明確にするため、「言語が消滅すること」を主語にします。

理由:

 なぜ望ましくないのか、その核心的な理由を記述します。「独自の思考法」や「世界観を知る手段」が「失われる」という点を盛り込みます。

構成案:

 「言語が消滅することは、(意思疎通には便利かもしれないが)その言語が持つ①独自の思考法や表現方法が失われ、②話者が抱いていた独自の世界観を知る手段まで失われてしまうということ。」

問1-2【解答】 (60字)

言語の消滅は、その言語に固有の思考法や表現方法が失われ、話者たちが抱いていた独自の世界観を知る手段も永遠に失われること。

問1-3【解説】

設問の分析

問い:

 地球上に多様な文化が存在することは人類にとってどのような意味を持つか。

要求事項:

 あなたの考えを述べること。

文字数:

 200字以内。

構成:

 PREP法(Point→Reason→Example→Point)を用いる。

PREP法に沿った思考プロセス

P (Point):結論

  • まず、問いに対する自分の考えの核(結論)を明確にします。
  • 本文では、文化的多様性の喪失が嘆かれる一方、それが人類社会の問題解決のヒントを失うことだと述べられています。この論旨を踏まえ、「多様な文化は、人類がより良い社会を築くための知的資源である」という方向で結論を設定します。

R (Reason):理由

  • 次に、なぜその結論に至ったのか、理由を述べます。
  • 本文の「アメリカ社会の姿はすでにかかなり病んでいる」 という記述や、「こうした個々の問題に対し、はるかに優れた解決策をもっているニューギニアの社会はひとつや二つではない」 という部分から理由を導き出します。
  • つまり、「自分たちの文化圏の価値観だけでは解決が難しい問題に行き詰まった際、他の文化が持つ全く異なる社会システムや価値観が、新たな視点や解決策を与えてくれるから」という理由を立てます。

E (Example):具体例

  • 理由を裏付ける具体例を挙げます。これは本文の内容を引用するのが最も説得力があります。
  • 本文で挙げられている「老人への対応、思春期の若者に見られる無軌道と抱え込んだストレス、拡大する格差」 などの現代社会の問題を例として取り上げ、それに対して「ニューギニアの社会」 が代替モデルとなり得た可能性に言及します。

P (Point):結論の再提示

  • 最後に、最初の結論を別の言葉で再度強調して締めくくります。
  • 「したがって、多様な文化は人類の未来の可能性を豊かにする貴重な財産である」といった形で、その重要性を改めて主張します。

文字数の調整と推敲

 上記の要素を組み合わせ、200字という制限文字数に収まるように、表現を簡潔かつ論理的に磨き上げます。各要素が長くなりすぎないようバランスを取ることが重要です。

問1-3【解答】 (196字)

多様な文化が存在することは、人類が自らの社会を見つめ直し、より良い未来を築くための知的資源として重要な意味を持つ。なぜなら、一つの文化圏では行き詰まる問題も、全く異なる価値観や社会システムに触れることで解決の糸口が見えるからだ。本文で示唆されるように、老人問題などで優れた解決策を持つ社会もあった。このように多様な文化は、我々の視野を広げ、人類の未来の可能性を豊かにする貴重な財産なのである。

問2-1【解説】

設問の分析

問い:

 傍線部①「沈黙の声として聞く」とは、どのような意味か。

要求事項:

 傍線部の比喩表現が何を意味しているのかを具体的に説明すること。

文字数:

 100字以内。

注記:

 本文中の表現は「声なきものの声を聞く」ですが、設問の「沈黙の声として聞く」はこれと本質的に同じ意味を指していると解釈します。

本文からの情報抽出

 傍線部①がどのような文脈で使われているかを正確に把握するため、その前後の記述を精読します。

「沈黙の声/声なき声」とは何か?:

  • それは「ことの本質」のことです。
  • 本文によれば、「言葉によってとらえられるのはことの表層部分にすぎない」とされています。
  • そして、「ことの本質」は、「むしろ言語によっては語り出しえず、言語からは聞き取りえないところに潜んでいる」と述べられています。
  • つまり、「沈黙の声」とは、通常の言葉(言語)では表現しきれない「こと」の本質を指しています。

「聞く」とはどういう行為か?:

  • 本文では、この「聞く」という行為は、「必ずしも言語的に分節され、構音された言葉として語られたり聞かれたりすることにかぎられるわけではない」と説明されています。
  • その後の段落では、「こと」は「もの」と違い、「意識の集中をまぬがれた未決状態」にあり、「対象化されることなく私のいまを構成している」とあります。
  • これらの記述から、「聞く」とは、耳で音を聞くことではなく、言語化されたり意識の対象となったりする以前の「こと」の本質を、ありのままの状態で直感的に捉える・把握するという意味合いであると読み取れます。

解答の構成

 抽出した2つの要素(「沈黙の声」とは何か、それを「聞く」とはどういうことか)を組み合わせて、100字以内の簡潔な文章にまとめます。

前半:

 「沈黙の声」が何を指すのかを定義します。「言葉では表現しきれない『こと』の本質」であることを示します。

後半:

 それを「聞く」という行為がどのようなものかを説明します。「意識的に対象化したり分析したりするのではなく、直感的にそのありのままを把握すること」を記述します。

結合:

 これらを接続し、一つの意味の通る文章として完成させます。

問2-1【解答】 (98字)

言葉で捉えられるのは物事の表層にすぎず、その本質は言葉にならない部分に潜んでいる。この言語化される前の「こと」の本質を、意識的に対象化することなく、そのありのままの姿で直感的に把握するという意味。

問2-2【解説】

設問の分析

問い:

 傍線部②の意味を説明すること。

要求事項:

 説明の中で、「もの」と「こと」それぞれの意味が明確に分かるように記述すること。

文字数:

 150字以内。

傍線部の推定:

 設問は「もの」と「こと」の関係性を問うています。本文中でこの関係性を端的に表しているのは、「純粋のことの状態は発生機の元素のように不安定であって、すぐにもの的な対象として安定しようとする傾向をそなえている」といった、「こと」が「もの」へと変化する性質を述べた部分です。この問いは、この変化のプロセスを具体的に説明することを求めています。

本文からの情報抽出(「もの」と「こと」の定義)

 設問の要求に応えるため、本文から「こと」と「もの」の定義や特徴に関する記述を抜き出します。

「こと」とは何か?

  • 意識の焦点を合わせる前の、未決で不安定な状態。
  • 意識の対象(オブジェクト)とはなっていない、純粋な経験そのもの。
  • 空間を占めないが、「私のいま」を構成する「時間」を占める存在。
  • 言葉で表現された時点で、すでに純粋な「こと」ではなくなっている。

「もの」とは何か?

  • 意識が向けられ、対象化された結果、安定した姿になった状態。
  • 意識の中で空間的な場所を占める。
  • 時計やカレンダーのように、客観的に計測可能な「時間」の中に存在する。
  • 本来、我々の意識が見出すのは、この「もの」である。

両者の関係

  • 「こと」→「もの」への変化:
     純粋な経験である「こと」に、人が意識を向ける(対象化する)と、それは意識の中で安定した「もの」へと姿を変えてしまいます。

解答の構成

 抽出した情報を基に、150字以内で「こと」と「もの」の対比と関係性が分かるように文章を組み立てます。

前半:

 まず、「こと」の本質を説明します。「意識の対象となる前の、時間を占める不安定な経験」として定義します。

後半:

 次に、「こと」が「もの」へどう変化するのかを説明します。「意識を向ける」という行為をきっかけに、「意識の中で空間を占める、安定的で客観的な『もの』になる」と記述します。

結論:

 この一連の変化が傍線部②の示す意味である、と締めくくります。これにより、「こと」と「もの」が対照的な概念でありながら、人間の意識の働きによって繋がっていることを明確に示します。

問2-2【解答】 (144字)

筆者にとって「こと」とは、意識の対象となる前の、空間を占めず時間を構成する不安定な経験を指している。これに対して、「もの」とは、「こと」に意識が向けられた結果、意識の中で空間を占める安定的・客観的な対象となった状態を指す。つまり、純粋な経験は意識された途端に客体化されてしまうという意味。

問2-3【解説】

設問の分析

問い:

 著者は「詩」をどのように考えているか。

要求事項1:

 筆者の考える「翻訳」との対比に言及すること。

要求事項2:

 傍線部③(言葉における「もの」と「こと」の共生関係)に関連させて説明すること。

文字数:

 150字以内。

本文からの情報抽出(「翻訳」と「詩」の対比)

 設問の要求である「対比」を明確にするため、本文の最終部分から両者の特徴を抜き出します。本文の核心である「もの(言葉という客体)」と「こと(言葉に宿る生きた経験)」の関係性を軸に整理します。

筆者の考える「翻訳」とは?

  • ある言語の「こと」に、別の言語の「もの(言葉)」を当てはめようとする行為。
  • この過程で、言葉とことの間にズレが生じ、言葉に対して無理(暴力)を強いることがある。
  • 結果として、「ことばをことから疎外させる不自然な行為」になりがちである。つまり、「もの」と「こと」の関係性を損なう可能性がある行為と捉えられています。

筆者の考える「詩」とは?

  • 言葉という「もの」と、それに宿る「こと」の「共生関係を最大限に利用している」言語芸術である。
  • 目的は、「ものについての情報の伝達」ではない。
  • 目的は、「ことの世界を鮮明に表現しようとしている」ことである。つまり、「もの」と「こと」の関係性を最大限に活かす行為と捉えられています。

解答の構成

 抽出した情報を基に、150字以内で対比構造が明確になるように文章を組み立てます。この構成により、「翻訳」と「詩」が、言葉における「もの」と「こと」の関係性をどのように扱うかという点で、正反対の営みであることが明確になります。

前半(翻訳について):

 まず、対比の対象である「翻訳」を定義します。「翻訳」が、言葉という「もの」と経験である「こと」を疎外させてしまう不自然な行為である、とまとめます。

後半(詩について):

 次に、「〜であるのに対し、」のような接続表現を用いて「詩」の説明に移ります。「詩」はそれとは対照的に、「もの」と「こと」の共生関係を最大限に活かし、「こと」の世界を鮮やかに表現することを目的とする言語芸術である、と説明します。

問2-3【解答】 (143字)

翻訳という行為が、言葉という「もの」に経験である「こと」を当てはめる際に両者を疎外させがちな不自然な行為であるのに対し、詩は言葉に宿る「もの」と「こと」の共生関係を最大限に利用し、単なる情報伝達ではなく、「こと」の世界そのものを鮮明に表現することを目的とした言語芸術であると考えている。

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