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上智大学 法学部 法律学科 公募制推薦入試 2021年 過去問解説

【解説】

■ 議論の整理

 ここでは、課題文の表面的な要約ではなく、筆者が「真の問題」だと認識している核心部分を正確に抜き出すことが求められます。
 特に「権力と戦う」という言葉が、筆者によればどのように「誤用」されているか(本来の精神 vs 自己陶酔)を明確に対比させることが重要です。「是々非々」が失われている、という筆者の「主張」を、自分の「結論」の「前提」として組み込むことを示すセクションです。

課題文の内容の要約(著者が認識する問題点)

 著者は、現代のマスコミが「権力と戦うこと」という言葉の本来の精神(民主主義を守るための調査報道)を見失っていると指摘する。その結果、「反権力」であること自体が目的化し、マスコミは自らを「闘士」とみなす陶酔的な物語に陥っている。これにより、物事を公正に評価する「是々非々」の姿勢が奪われていることが、著者の認識するマスコミの現状の問題点である。

(共通の前提)

 マスコミ(報道)は民主主義社会において重要な役割を担っており、その「権力との関係性」は常に問われるべきテーマである。

(議論の論点)

一般論・一部マスコミの姿勢:

 マスコミの使命は「権力と戦うこと(=反権力)」である。

筆者の論:

 「反権力」が目的化し、本来必要な「是々非々」の姿勢が失われていることが問題である。

■ 問題発見

 小論文の「問い」は、筆者の問題提起(=是々非々が失われている)を「受けて」設定しなければなりません。
 ここでは「マスコミはどうすべきか」という漠然とした問いではなく、「筆者の指摘する『自己陶酔』を脱し、本来の役割(民主主義への貢献)を果たすために、マスコミはどう対応すべきか」と、課題文に即して具体的に設定します。この「問い」が、以降の論証・結論の「道しるべ」となります。

(問題の発見)

 著者が指摘する「反権力の目的化」と「是々非々の欠如」というマスコミの問題に対し、マスコミが報道への信頼を回復し、民主主義に資する本来の役割(権力の監視)を果たすためには、具体的にどう対応すべきか。

■ 論証(なぜ「是々非々」が必要か)→ なぜなぜ分析

 ここでは「なぜ筆者の指摘する問題(反権力の目的化)がダメなのか」を深く掘り下げ、「だからこそ是々非々が必要だ」という結論に繋げるための論理(ロジック)を構築します。

(論証A) なぜ「反権力」の目的化は問題か?

 それは、報道が「事実」よりも「反権力」という立場を優先することになり、国民が正確な情報に基づいて判断する機会を奪うからだ。

着眼点

 「国民の判断材料を歪める」という直接的な弊害を指摘します。

(論証B) なぜ国民が正確に判断できないと問題か?

 政策や事象のメリット・デメリットが公平に報道されなければ、国民は多様な視点を得られない。また、権力が交代した途端にマスコミの主張が変わる(と筆者が指摘する)ようでは、報道全体への信頼が失墜するからだ。

着眼点

 それが「報道の信頼失墜」という、より深刻な問題に繋がることを示します。

(論証C) なぜ報道への信頼失墜が問題か?

 報道が信頼されなければ、マスコミが本来果たすべき「権力の監視」機能(=民主主義を守るためのジャーナリズム精神)そのものが機能不全に陥る。これは民主主義の基盤を揺るがす事態だからだ。

着眼点

 信頼失墜が「民主主義の基盤(権力監視機能)」そのものを破壊するという、最も根本的な問題に行き着かせます。この深掘りが説得力を生みます。

■ 解決策

(Cから導かれる解決策)

 マスコミが取るべき対応は、「反権力」か「権力寄り」かという二項対立的な思考停止から脱却することである。そして、民主主義の基盤である「信頼」を取り戻すために、事実に基づいた「是々非々」の報道姿勢を徹底することである。

着眼点

 「論証C」で導いた「民主主義の基盤が揺らぐ」という最悪の事態を避けるための「処方箋」でなければなりません。ここでは「是々非々の徹底」がそれに当たります。

(その根拠)

 論証Cで示した通り、「反権力」の目的化は報道の信頼を失墜させ、結果的にマスコミ本来の使命である「権力の監視」機能をも麻痺させてしまうからだ。「是々非々」の姿勢こそが、国民の知る権利に応え、民主主義を健全に機能させるために不可欠である。

着眼点

 それがなぜ「処方箋」になるのかを、論証のロジック(信頼の回復→権力監視機能の回復)を使って再確認します。

(その具体例(具体的な対応策))

 結論を「絵に描いた餅」にしないために不可欠です。「是々非々を徹底する」とは、具体的に「何をする」ことなのかを(ファクトチェック、多様な視点など)示すことで、解答の解像度を上げます。

1.ファクトチェックの徹底:

 報道の根拠となる事実(データ、取材源)を可能な限り明示し、透明性を高める。

2.多様な視点の提供:

 一つの事象に対し、賛成意見と反対意見、メリットとデメリットをバランス良く報道し、国民が自ら判断できる材料を提供する。

3.ジャーナリスト教育の革新:

 単純な「反権力」スローガンではなく、事実を多角的に分析し、公正に報道するための倫理観とスキル(データ分析、法解釈など)を重視する教育を行う。

■ 解決策の吟味

 このセクションは、自分の結論(是々非々)に対する「想定反論」に先回りして答えることで、議論の「穴」を塞ぎ、説得力を最大化する部分です。「是々非々=権力への迎合」という最もありがちな批判をあえて取り上げます。
 その上で、「迎合」と「公正な評価」は全く別物であることを(最終確認)で論理的に(再)反論します。筆者の言う「本来の精神(民主主義を守るための調査報道)」に立ち返り、それこそが「是々非々」の姿勢によって達成されるのだと強調することで、課題文の趣旨と自分の結論が完全に一致していることを示し、論を閉じます。

(他の解決策との比較) (想定される反論)

 「是々非々」の姿勢を追求すると、結局は権力に迎合した「権力寄り」の報道になってしまうのではないか。

(最終的な解決策の確認) (上記反論への再反論と結論)

 それは「是々非々」の本来の意味を誤解している。「是々非々」とは、権力に迎合することではなく、権力の政策や言動を、事実(ファクト)と法に基づき、是(よいこと)は是、非(わるいこと)は非として公正に評価・報道する姿勢である。
 むしろ、筆者が憂うように「反権力」であること自体に固執するほうが、権力が交代した際に一貫性を欠き、報道の信頼を失う。真に権力を監視し民主主義に貢献するためには、困難であっても「是々非々」の原則を貫き通すという、マスコミ自身の「本来の精神」の回復こそが必要な対応である。

【解答】(797字)

 現代のマスコミにおける「権力と戦う」という言葉は、本来の意味が失われつつある。筆者は、この言葉が民主主義を守るための調査報道を示すにもかかわらず、現在では「反権力」であること自体が目的化し、自己陶酔的な姿勢に陥っていると指摘する。つまり、政策や事象を公正に評価する是々非々の姿勢が欠落していることが問題の核心である。加えて、この姿勢は報道という公的行為を自己表現の舞台へと矮小化してしまう危険をはらんでいる。
 そこで、筆者の指摘を踏まえると、マスコミが本来の役割である「民主主義への貢献」を果たすには、この反権力の目的化を改めなければならない。なぜなら、立場を優先する報道は、国民が正確な情報に基づいて判断する機会を奪い、結果として報道への信頼が低下するからである。さらに、信頼を失った報道は、権力を監視する機能そのものを弱体化させ、民主主義の健全性を損なう。民主主義は多様な意見に基づく熟議を前提としており、報道の信頼はその出発点となる。
 したがって、マスコミが取るべき対応は、事実に基づく是々非々の報道姿勢を徹底することである。具体的には、第一に、事実確認を厳格に行い、根拠を明示して透明性を高めることが必要である。第二に、賛成・反対双方の意見を提示し、国民が多面的に判断できる材料を提供することが重要である。第三に、ジャーナリスト教育において、公正な分析力と倫理観を重視する育成が求められる。これらの取り組みは、報道が社会に提供する価値を再確認することに繋がる。
 ただし、「是々非々」は権力への迎合であるとの反論がある。しかし、それは誤解である。是々非々とは、権力の言動を事実に基づき、良い点は評価し、問題点は批判する姿勢である。反権力を目的化する方がむしろ一貫性を欠き、信頼を損なう。真に民主主義を守るためには、マスコミがこの原則を回復し、責任ある公共性を取り戻すことが不可欠である。

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